かわらじ先生の国際講座~日露関係の現在

画像なし7月19日から25日にかけて、航空自衛隊とドイツ、フランス、スペイン空軍による共同訓練がわが国で実施されました。NATO加盟3ヶ国は合同部隊を編成し、世界各地で「パシフィック・スカイズ24」という軍事演習を展開しており、米国アラスカで米軍との訓練を終えた後、日本を訪れたとのことです(『日経新聞』2024年7月20日)。
スペイン軍、ドイツ軍との訓練は北海道の千歳基地、フランス軍との訓練は茨城県の百里基地で行われたとのことですが、その目的は何ですか?

防衛省の説明によれば、「自由で開かれたインド太平洋」の維持に向けてNATO諸国との連携を強めてゆくことが目的とされます。
岸田首相は7月11日、米ワシントンで開かれていたNATO首脳会議にパートナー国として出席し、スピーチを行いましたが、そのなかで中国、ロシア、北朝鮮の軍事的協力の進展に対する懸念を表明し、NATOがインド太平洋への関心と関与を高めていることを歓迎しましたが、要するに中国、ロシア、北朝鮮の軍事的挑戦に対し、日本はNATO諸国と連携して立ち向かうのだという意志を示したのでしょう(『朝日新聞』2024年7月12日夕刊)。ドイツ、フランス、スペイン軍との合同訓練もその一環と位置づけることができます。

画像なし近年わが国は、中国海軍の増強に対抗すべく、沖縄本島を含めた南西諸島の防衛強化に力を入れてきました。ところが今回、特にスペイン軍、ドイツ軍との共同訓練を北海道の千歳基地で行ったことが目を引きます。北海道を選んだということは、当然のことながらロシアを仮想敵国とした軍事訓練だと解釈できるのですが、どうなのでしょう?

防衛省はあくまでも「インド太平洋」の安全保障のためだとし、ロシアを名指しすることは避けていますが、同国を念頭に置いた訓練であることはたしかでしょう。ロシアもそのように解釈し、日本に厳しい抗議を行っています。
すなわち、この合同訓練の実施が事前に明らかにされた6月下旬、ロシア外務省は大略以下のとおり声明を出しました。「日本が7月19日~25日、ロシアと至近距離にある北海道において、ドイツ、スペイン両軍と合同訓練を行おうとしていることに関して、ロシア外務省は6月28日、在ロシア日本大使館に対し、断固たる抗議を行った。日本がNATO諸国とともに、ロシア国境付近でこうした挑発行為を行うことは、ロシアの安全保障を脅かすものだと見なさざるを得ない。ロシアは主権を守るため、防衛力強化の対応措置を講ずるであろうことを日本側に警告する(以上、ロシアのウェブサイトより引用)」。こうしたNATOとの合同訓練が、日露間の軍事的緊張を高めたことは間違いありません。ロシア側の「対抗措置」が不気味です。

画像なしウクライナ戦争の開始以来(そして日本がロシアへの制裁に加わってから)日露関係はすでに相当悪化しており、日本もロシアもそれを修復しようという意志がないように見えますがどうでしょう?

たしかに両国とも批判の応酬を繰り返すばかりで、関係改善の兆しが全く見出せないのが実状です。ロシアのプーチン大統領は6月5日、サンクトペテルブルクで世界の主要通信社との記者会見を行いましたが、日露関係については、日本がウクライナ支援を続けている限り、平和条約交渉を再開する条件は無いと断じました。これに対し林官房長官は、翌日の記者会見で、「日本側に責任を転嫁しようとするロシア側の対応は極めて不当で、断じて受け入れられない」と反論しました(『朝日新聞』2024年6月7日)。
7月中旬には、ルーマニアの駐ロシア公使が、ロシア政府(連邦保安局)の許可を得て、北方領土の国後島と色丹島を観光目的で訪れたとの報道がロシア側から流されました。ロシア政府の許可に基づき北方領土に入ることは、それをロシア領だと承認することに他なりませんから、日本としては到底認められない行為です。それをEU・NATO加盟国であり、日本との友好国でもあるルーマニアの高官が行ったのは、わが国にとっては憂慮すべきことで、ルーマニア政府に真意を問いただしているそうですが、ロシアとしては日本とEU・NATO加盟国との間にくさびを打とうとの思惑があるのかもしれません(『朝日新聞』2024年7月18日)。
そして7月23日、ロシア外務省は、トヨタ自動車の豊田会長や楽天グループの三木会長兼社長など日本企業のトップを始めとする13名に対し、無期限でロシアへの入国を禁止すると発表しました。実は日本政府も6月に、ロシアの個人や企業について資産凍結の対象を拡大するなど制裁を強めていましたので、それへの対抗措置と思われます(『讀賣新聞』2024年7月24日)。

画像なしこうしてみると、政治、経済、軍事など様々な面で日本とロシアは報復措置をどんどんエスカレートさせていると言わざるを得ませんが、事態打開のために打つ手はないのでしょうか?

最初に述べたように、日本はNATOとともに対ロシア包囲網を作ろうとしていますので、もはや日本単独でどうにかできる段階を超えています。もし何かできるとしても、NATOの盟主である米国の動向、とりわけ大統領選挙の帰趨によって風向きが変わるのを待つしかなさそうです。インド太平洋に〈NATO、日本、オーストラリア〉VS.〈中国、ロシア、北朝鮮〉という対立構造が形成された以上、日本が独自に動ける幅は非常に狭くなっていると感じざるを得ません。

画像なし7月29日のニュースによると、参議院議員の鈴木宗男氏が昨年10月に続き、再びロシアを訪問しているとのことです。ロシア外務省や漁業関係者との折衝を予定しているとのことですが、何かを期待することはできませんか?

鈴木氏は政治家として、地元である北海道の漁民や北方領土元島民の利益を守る責務がありますから、その上での行動と推測します。ただし彼は首相に親書を託されたわけでもないようですし、個人の立場で渡航した以上、ロシア側がどれだけ重視してくれるのかは疑問です。とはいえ、鈴木氏が現地で感じた手応えなどに関する発言には留意したいと思います。

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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。 同大学院修士課程修了。 専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。 俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。 俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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