本のこと、本屋のこと

模索舎内に置かれた車掌27号。かるただけどちゃんと本棚にあり本扱い。でも「まだ1つも売れていません」とのこと。

私は「車掌」というミニコミ誌を1987年から不定期に発行している。
自分で版をつくり印刷屋に印刷と製本をお願いし、できあがったのを直接お店に持っていき、売れたら売り上げの7割の代金をもらう。
直接お店に…。そんなやり方でこのミニコミを置いてくれてた数少ない本屋さんはほとんど廃業してしまい、今、「車掌」を扱っている一般書店は1軒もない。
そしてもちろん一般書店では、「車掌」を”注文”の形で取り寄せもできない。
本屋にとって、「車掌」は”本”でも”雑誌”でもないからだ。

この機会にかつて車掌を置かせてもらってた都内の本屋さんをめぐってみた。四谷しんみち通りにあった「文鳥堂四谷店」はカラオケ屋さんになっていた。

本屋さん減少問題が言われて久しく、経産省は今春、本屋さんを救うためのプロジェクトチームを発足させた。
「書店は教養を高める一つの基盤」
「非常に重要なものが、日本からどんどんなくなっていくと、いかがなものか」
こんなことを、経産相の斎藤健氏が述べたらしい。(2024.4.24東京新聞)
「まちづくり」という名の再開発。弱肉強食の資本主義システム。そのなかで「どんどんなくなっていった」小さなお店は、数知れない。
私にとっても、地域のコミュニティにとっても重要だった魚屋も、金物屋も、文具屋も、傘屋も、駄菓子屋も、居酒屋も、たくさんなくなってしまったよ。
なのに取り立てて、「非常に重要」として、政府は本屋だけを方舟に乗せようとしている。

こんな私も、「本」と呼べるISBNのついた作品を、出版社から数冊出した経験がある。
3作目の『鈴木の人』という本は、鈴木人口が多いので売れそう、と思われたのか、発売と同時に、全国の書店に一斉に並んだ。

西荻窪東銀座通りのこのあたりには、非常に初期の車掌を扱い(1990年頃まで)そして「売れないから」と途中で扱ってくれなくなった「信愛書店」という本屋があった。

テレビや週刊誌、新聞の書評でも取り上げられ、それを見た知り合いから連絡が来たり、母からは「あなたの本が瀬戸内寂聴の本のとなりで平積みになってる!」と興奮して電話がかかってきたりもして、私は愚かにも、自分がこれから売れっ子になるのだと思いこんだ。
ところが1か月もすると
「本買おうとしたけど、売ってないよ」
と、複数の人から連絡が入るようになり、あげく、「注文したら、もう絶版だと言われた」
なんて人まで現れた。
不思議に思って担当編集者に電話したら、
「あ、そうです。絶版に、売れないので断裁しました」
と平然と言うのだ。ショックの前に、まずはこの早技に全くもって舌を巻いた。
・・・・・

「芳林堂池袋本店」という大きな本屋もなぜか車掌を置いてくれてた。跡地を探しまわっていると「芳林堂外商部」というシャッターの下りた建物あり。いろいろ不明。謎。

マスコミで取り上げられ出したのが、発売後大体2週間過ぎ。
がそのとき私の本はすでに店頭になかった。
2週間くらい置いてみたけど動きのない本は、各地の本屋から取次を通して返品され、集まり終わるとあっけなく断裁されてしまったのだ。
断裁されるために印刷されたようなものだった。
なんとも紙と機械の無駄遣い。
と私は思うけど、彼らにとっちゃ、動きのない本をじっと置いとくことが「無駄」であり、送ったり、送り返したり、断裁したりするのは経済活動の一環なのだ。

商業とはこういうものである。
私の思う「文化」と全く相容れない世界。
出版・流通は、お金には換え難い「本」という文化を商業化する、資本主義に文化を飲みこませるシステムなのだと、そのとき気づいた。
以降、私は大きいもの、強いものは信じないゾと心に決めた。

「ブックセンターリブロ青山店」は先方から「置かせてくれ」と言ってきた珍しい本屋さん。今はお蕎麦屋さん?!と思ったけど、後で調べたらこの左にちょっと見えてる隣のビル(BMW)の地下だった。

区内のショッピングセンターにある書店の前を通りかかると、「新一万円札になった渋沢栄一ってどんな人?」コーナーが設けられ、渋沢栄一関連の本がずらっと並んでいた。
本屋のくせに、日銀の代理店かい!って、バカらしくなったけど、経産省本屋支援プロジェクトの成果のひとつかもしれない。
一方同じころ立ち寄った他区の本屋さんはもっといい感じで、あちこちに「○○賞受賞!」とか「当店売上NO.1」とか、書店員さんの手書きのポップがついていて、手作りで本を売ろうとしている息使いが感じられた。
だけど、考えてみたら、「○○賞受賞」な本や、「売上NO.1」の本は、こんなポップなくたって売れるんじゃないか? これらのポップは、本の序列化、格差拡大を後押しするだけなんじゃないの? とも思えるのだ。
売れる本、いい本、薦めたい本を本屋が決め、重点的に売る。
それは一見、本屋の個性が現れ、よいことのように見えるけど、いい本、買いたい本、読みたい本を見つけ、決めるのは、本屋でなく、お客さんの方である。

模索舎入口。看板には木彫りで「ミニコミ小流通出版取扱書店」と書いてある。

東京・新宿の一等地で、模索舎が50年以上もつぶれずに続いている。模索舎は言わずと知れた、自主流通出版物取扱店の老舗である。持ちこまれた自主出版物は、ヘイト、差別を助長するもの、個人のプライバシーを侵害するもの以外はすべて扱う。お店自身は左翼っぽいけど、右翼の出版物も受け入れる(主に機関紙・機関誌)。
私の車掌を、創刊号から最新のかるた号まで、全部扱ってくれたのはただこの模索舎一店のみ。画びょうが刺さった号や、本の体裁を取らない手紙号や今度のかるたも受け入れてくれた。
この模索舎が、書店激減の時代に平然と新宿に存在する。という事実はとても重要だと思う。

「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」。
自民党内にはそんな名の団体があるらしい。
「守る」は「支配」(⇒コラム「「守る」について」参照)。日本の文化を支配するため、政府はこの本屋弱体化の機に本屋さんをも支配しようとしているようだ。
でも本屋さんたちが参考にすべきは、そんな連盟や政府の提案ではなく、この模索舎の在り様なんじゃないかと私は思う。
文化に優劣はない。仮にあったとて、それを書店や、権力者や、識者が決めることはできない。
そして庶民は選ばれた文化だけを与え続けられない権利を持ってるはずだから。
本屋さんたちが、こんな流れに吞み込まれないことを心から祈る。もちろんアマゾンにも負けないことを。
そして車掌を置いてみよう! 注文をお待ちしているよん!

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塔島ひろみ<詩人・ミニコミ誌「車掌」編集長>
『ユリイカ』1984年度新鋭詩人。1987年ミニコミ「車掌」創刊。編集長として現在も発行を続ける。著書に『楽しい〔つづり方〕教室』(出版研)『鈴木の人』(洋泉社)など。東京大学大学院経済学研究科にて非常勤で事務職を務める。

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車掌27号第3回かるた大(小)会、8月14日に開催します。手話で札を読む異色の回。ぜひ参加してください!

 


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