かわらじ先生の国際講座~代理戦争の構図!?

画像なし木村稔防衛大臣が7月12日の閣議で『2024年版 防衛白書』を報告しました。以下、7月13日付『京都新聞』によれば、中国軍は南西諸島と台湾、フィリピンを結ぶ「第1列島線」を超え、伊豆諸島やグアムをつなぐ「第2列島線」に及ぶ地域で活動を活発化させており、わが国の防衛力維持のため増税への理解を要請したとのことです。
今月上旬には海上自衛隊の護衛艦が一時、中国の領海に侵入し、中国側が日本政府に厳重抗議を行いました。


おそらく海自としては、中国公船が頻繁に日本の領海を侵犯することへの報復措置を講じたものと思われますが、いずれにせよ日中間の対立が軍事レベルに引き上げられたのは不気味です。以前、ピーター・ナヴァロ著、赤根洋子訳『米中もし戦わば』(文藝春秋、2016年)という本が出され、文庫本にもなり、割と評判を呼んだと記憶しています。ところが今や「日中もし戦わば」という局面になってきているように感じますが、いかがでしょう?

「台湾有事」をめぐっては、米国は自由と民主主義の防衛、中国は民族統一を掲げ、互いに自国の行動の正当化をしていますが、本質は両国の覇権争いです。どちらに正義があるかではありません。インド太平洋の海洋覇権をめぐって米中がしのぎを削っているのが実状です。
歴史的に遡ると、この海洋権益は、1945年までは大日本帝国が握っていました。当時のわが国が掲げていた「大東亜共栄圏」がそれです。

しかし第二次世界大戦の激戦のなかで日本は次々に海洋権益を失い、最後は沖縄戦において完全に制海権を喪失したのでした。

地底学的な言い方をしますと、大日本帝国の敗北により、海洋に「力の真空」が生じました。この「真空」を埋めたのが米国です。米国が旧大日本帝国から海洋覇権を引き継いだのです。それが今日まで続いているわけですが、2000年代に入って中国が急速に海軍を増強し、この海洋覇権(の一部)を米国から奪おうとしているのが今日の構図です。そして今後の帰趨を左右するのが台湾というわけです。

画像なしなるほど。で、中国側が唱える「第1列島線」が米中攻防の最前線なのですね!?

そうです。中国はさらに「第2列島線」「第3列島線」まで引いています。

ですから米国としては、何としても「第1列島線」で中国を食い止めねば、いずれ自らの海洋覇権を中国に持って行かれてしまうという脅威感を抱いているのです。しかし、現在の米中の海軍力を比較した場合、米国はもはや単独では「第1列島線」すら守れないという認識を強めており、日本の防衛力強化を切望しているのです。
ところでこの「第一列島線」は、ちょうどわが国の南西諸島に沿って引かれています。

画像なし南西諸島とは?

主として鹿児島と沖縄に属する島嶼群で、主な島は馬毛島、奄美大島、沖縄本島、宮古島、石垣島、与那国島です(なお、南西諸島の内、さらにその南西部の島々を先島諸島と呼びます)。そして、この南西諸島に現在、着々と自衛隊駐屯地が置かれ、ミサイル部隊や電子戦部隊が配備されています。

画像なしさきほどの話では、「台湾有事」問題もその本質は米中の覇権争いだとのことでしたが、それならなぜ自衛隊がミサイル基地などを置かなくてはならないのですか?これではまるで日本が覇権争いの当事国のようではありませんか?

まさに問題はそこです。だれがこれを仕組んだのかは知りませんが(米政府?それとも日本政府?)、いつの間にか米中の軍事対決が日中の軍事対決にすり替わってしまったのです。米国ではなく日本が、中国との対決の当事者となってしまっているのです。

画像なし米国軍はどこに隠れてしまったのですか?

隠れてはいませんし、沖縄本島には米軍基地があります。しかし、今年12月から在沖縄米軍はグアム島へ移動を開始するようです。

 東京新聞 TOKYO Web 
米海兵隊グアム移転、12月開始 沖縄負担軽減へ実行段階、4千人:東京新聞 TOKY...
https://www.tokyo-np.co.jp/article/334003
【ワシントン共同】在日米軍再編に伴う在沖縄米海兵隊の米領グアムへの移転が今年12月に始まることが16日分かった。兵たんを担う隊員から移...

米軍は南西諸島には恒常的基地を置かず、必要に応じ出動する態勢をとっています。何だか主要な戦いは日本に任せる、と言っているような気すらします。ちなみに今年1月、日本政府は米政府との間で、巡航ミサイル「トマホーク」400発を購入する正式契約を行いました。

このトマホークをどこに配備するかは機密のようですが、ともかく米国から買ったミサイルを使って日本が中国の艦船などを攻撃することが想定されています。ここまでくると、日本が米国の身代わりに中国との戦争を行う、すなわち米中戦の代理戦争としての日中戦争を遂行する役目を負わされている、という見方もできそうです。

画像なしその最前線に立たされる南西諸島の住民はたまったものではありませんね!

はい。ですから政府は南西諸島の住民の命を守る策は講じ出しているようです。たとえば島民を山口県や九州へ避難させる計画です。

それでも島民全員が避難できるわけではありませんから、石垣島や与那国島などにシェルターを構築することを政府は検討しているようです。

さらには避難訓練も実施しています。

画像なし南西諸島の人々は、まるで戦争前夜のような状況に置かれているのですね。

それでも、われわれ本州に暮らしている者にとってはまだ遠い出来事のように感じるかもしれません。しかし、沖縄は日本の縮図です。そして、実は沖縄で起こっていることは、すでに日本の中心である東京でも進行していることを忘れてはいけません。東京のど真ん中である麻布十番に対ミサイル攻撃用のシェルターが作られているのです。沖縄本島や南西諸島の住民と同じことは、まもなく我々自身が体験することなのです。

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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。 同大学院修士課程修了。 専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。 俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。 俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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