かわらじ先生の国際講座~台湾のジレンマ

画像なし中国の司法当局は5月21日、台湾の独立を目指す動きに対して厳罰を科するという指針を発表し、即日施行しました。独立推進の組織創設や綱領の策定、住民投票などを通じた独立運動などが処罰の対象で、危害が深刻な場合、死刑に処することもできるという内容となっています。

中国政府は今なぜこんな強硬策を導入したのでしょうか?

中国司法当局がこの指針を公表した前日(5月20日)に、台湾では頼清徳氏が新しい総統に就任しました。中国政府は頼総統を相当警戒し、発足したばかりの新政権が中国の意に沿わないような活動をしないよう釘を刺したということではないでしょうか。台湾の活動家が大陸に渡らない限り、逮捕などという事態には至らないと思いますが、楽観もできません。中国や台湾以外の第三国にいる人(たとえば日本に来ている留学生など)も処罰の対象となる可能性はありますので。

画像なし中国政府は「一つの中国」を主張し、「台湾は中国の一部」という立場ですが、実際のところ台湾は国際的にどのような位置付けなのでしょう?

非常に微妙で、難しい問題です。日本外務省のホームページによれば、2024年1月現在、台湾と外交関係があるのは12ヵ国です。つまり、台湾を国家として承認しているのはわずか12ヵ国で、それ以外の国々は台湾を国家と見なさず、「中国は一つ」であり、「台湾は中国の一部」だとする中国の主張を尊重し、受け入れています。日本や米国も例外ではありません。
米国は「台湾有事」を一貫して警戒しているものの、「一つの中国」という中国政府の立場を認め、台湾の独立を許容していません。ところが、これは一昨年のニュースですが、バイデン米大統領は記者団の質問に対し、うっかり台湾の独立を認めるとも受け取れる発言をしてしまい、スキャンダルになりかけました。バイデン氏はその後直ちに自分の発言を撤回しましたが。

画像なししかし米国は台湾に武器を提供するなど、一貫して軍事支援を行っていますよね。「一つの中国」という中国政府の立場を受け入れながら、矛盾していませんか?

このへんの事情も複雑ですが、ごく簡単に歴史をおさらいしておきましょう。
日本が日清戦争に勝利した1895年以降、第二次世界大戦で敗北する1945年まで、台湾は日本が統治していました。1945年から台湾は、蒋介石総統が率いる中華民国政府(国民政府と呼ばれました)の管轄下に入りますが、毛沢東が率いる共産党軍との内戦になります。
1949年に共産党軍が勝利し、中華人民共和国を建国すると、蒋介石政権は台湾に逃亡し、そこに中華民国を移します。国連は中華人民共和国を認めず、引き続き中華民国を中国の正当な代表としていました。
しかし、米国が毛沢東の中国と関係を改善させた1971年、国連は中華人民共和国を中国の正式な代表と認め、台湾を追放します。以後、国際社会は中華人民共和国の「一つの中国」という言い分を認め、台湾を国ではなく「地域」として扱うようになるのです。ただし国際社会はその後も台湾とは経済や文化面での交流を継続し今日に至っています。また、米国は「台湾関係法」という国内法を制定し(1979年)、台湾の安全保障に深く関わっています。

画像なし台湾も突然、国際社会から見放されたようで気の毒ですね。しかし台湾政府は「地域」扱いに納得しているのですか?

台湾は今も正式には「中華民国」を名乗っていますし、パスポートの表紙にも「中華民国」と記されています。しかし国際社会は中国の立場を尊重しています。それがはっきり表れるのは国際的なスポーツ大会のときです。オリンピックでは台湾代表を「チャイニーズ・タイペイ」と呼称することに決まっています。
ところが2020年の東京オリンピックと翌21年の北京冬季オリンピックの開会式のとき、NHK放送でちょっとした異変が起こり話題となりました。台湾の選手団が入場した際、場内アナウンスでは「チャイニーズ・タイペイ」と流れたのですが、それを中継していたNHKのアナウンサーが「台湾です」と言い換えたのです。NHKとしては、せめて「台湾」と呼ぶことによって、台湾の人々への連帯を示したものと思われます。台湾の人々もこれには感激したとか。

画像なし日台友好を示すエピソードですね。台湾の人々は親日的だと聞いたことがありますが、そうなのですか?

わたしもよく聞きますし、実際そうなのだと思います。ただし、戦時中、日本が台湾を植民地にしていた事実を忘れてはいけませんし、台湾の人々も声高には言わないものの、その歴史を忘却しているわけではありません。2011年に「セデック・バレ」という題の台湾映画が作られ好評を博したそうです。日本統治下の台湾でセデック族という先住民が起こした抗日蜂起事件に材を取った映画とのことです。

台湾には日本統治時代に造られた建築物も多く残されているそうですが、それらも歴史を考える上でいろいろ教えてくれるのではないでしょうか。

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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。 同大学院修士課程修了。 専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。 俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。 俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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