Weekend Review~「空に住む飛行機(ドールハウス)」

今から30年ほど前、勤務先の同僚から勧められて読んだのが「空に住む飛行機」でした。
今回、このレビューを書くにあたりこの書籍を調べると、なんと1994年に文庫本発行されてから、その後、1999年に「ドールハウス」というタイトルに改題されて出版されていました。そして「あらすじ」もまた変えられていました。
【空に住む飛行機】のあらすじ
異常に厳格で病弱で夫婦仲の悪い両親を持つ大屋敷理加子は、礼儀正しく真面目に過ごし、29歳になった。他人との距離の取り方に何かしらぎこちなさを感じる理加子はふつうの恋、あたりまえの生活を夢見るようになっていた。そんなある日、彼女の前に江木という男が現れて…。切なく心に迫る長編。
【ドールハウス】のあらすじ
常軌を逸した強権の父と、身を飾ることを狂気じみて嫌悪する母。一人娘の理加子は29歳になっても「不良になるから」と髪をのばすことも、気ままに電話することも禁止されている。そんな理加子の前に、仲のよい家族のもとで育った江木という男が現れ、強引に接近してくる。理加子は初めて「男性とつきあう」ということに向かい合うが、毒親の呪縛が立ちはだかる……。初版1992年、「毒親」という言葉がまだなかった時代に、毒親育ちの葛藤を描いた先駆けの小説。

そう、時代の流れのなかで「毒親」というワードが誕生し、まさにそれに該当すると判断した出版社は素早く反応し(たぶん)、タイトルとあらすじを改編したのです。姫野カオルコさんの視点が時代を先行して執筆されていたのでしょうか。父親像を「異常に厳格で病弱で夫婦仲の悪い両親」から「常軌を逸した強権の父親と身を飾ることを狂気じみて嫌悪する母親」というように、小説を読めば改編後のあらすじのほうが完全にしっくりきます。毒親というワードが明確に出されていることで、改めて購買を(読者を)増やしたのではないか、出版社の策略を感じるのは、私の穿った見方でしょうか。
タイトルは異なりますが、内容は同じだと思うので紹介しますと、超厳格な家で育てられた主人公・大屋敷理加子(すごい名前!)の淡々と同じことを繰り返すだけの日々の中で、ある日、多くの人にとっては普通の出来事ですが、彼女にとっては超劇的(超過激)な出来事から、自分の心のフタを少しずつズラし開けていく、初恋物語といっていいほのぼのしたお話、では終わらない物語です。
このお話には、常軌を逸した性質の両親という存在が常に並走しています。両親は超厳格というベールをおおった超幻覚的な、ある種、心病んだ人たちです。その両親の網の中でそれほどもがくこともなく、受け入れている主人公の理加子にも、実はがっつりと両親の(あえて言えば)異常性が継がれていることを、物語の最後に漂わせる、サイコ的な怖さで終わっていくところがこの本の魅力なのだと思っています。何気なくこの本を買って読んだ人は、たぶんインド旅行にドはまりするタイプと、二度と行かないと後悔するタイプと同じぐらい、二分するだろうなあと思います。この本を勧めてきた人は、きっとハマると私の性質を見抜いていたことに、ちょっと怖さが走ります。この本と出会って30以上経つけれど、何十回と読むたびに、魅入られていくのはやはり著者の執筆力なのだと尊敬しています。わたしとしては、旧題の「空に住む飛行機」のほうがおしゃれで、読めばそのタイトルに込められた想いが切なくキュンとするので好きなのですが…。
その後、姫野カオルコさんにこだわり、探し読んだ「ひと呼んでミツコ」。発表としては、こちらの作品のほうが1年ほど先のようです。空に住む…以上にぶっ飛んでおります。引き続き、そちらもご紹介したいと思っています。(ふるさとかえる)


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