かわらじ先生の国際講座~プーチン大統領の北朝鮮・ベトナム訪問の意味

画像なしロシアのプーチン大統領は、去る6月19日に北朝鮮を訪問し、首脳会談などを終えたあと、20日にはベトナムを訪れました。先月には中国の北京にも行っていますので、大統領5期目に入ったプーチン氏は、アジア外交に本腰を入れ出したように見えます。まずはロ朝関係についてどう評価しますか?

北朝鮮は国を挙げてプーチン大統領を熱烈歓迎したようです。

ところで今回最も注目されたのは「包括的戦略パートナーシップ条約」が結ばれたことです。北朝鮮側が直ちにその全文を公表しましたが、第3条では、どちらかが武力侵略の脅威に直面した場合、両国は直ちに協議を行うこと、第4条では、どちらかが武力侵略を受け戦争状態に陥った場合、国連憲章と両国の法に準じて、遅滞なく、あらゆる手段で軍事的支援などを行うことが定められています(『讀賣新聞』2024年6月21日より再引用)。両国は実質的な軍事同盟関係に入ったといえるでしょう。冷戦時代のソ連と北朝鮮がそのような関係でしたが(両国は1961年に「友好協力相互援助条約」を締結)、それに復帰したわけです。

画像なしこのような関係は両国にとってどんなメリットがあるのでしょう?

軍事面における支援ということでは、すでに北朝鮮がロシアに対して行っていることが明らかになっています。ロ朝両国は認めていませんが、国連安保理の専門家パネルや、米国、韓国等の分析によれば、北朝鮮製の砲弾や短距離ミサイルがウクライナに着弾しており、北朝鮮からはロシアに500万発程度の砲弾が提供されたとの推定もあります。北朝鮮がロシアの「武器工場」化しているとする見方すらあります。今回の新条約は、こうした北朝鮮によるロシアへの軍事支援を法的にも正当化するものといえます。ただし、北朝鮮軍がウクライナ戦争に参戦している事実は確認されていませんし、プーチン氏自身も記者会見のなかで、北朝鮮兵士をウクライナに派遣する必要はないと断言しています。

画像なしでは、北朝鮮側が得られるロシアからの軍事支援とはいかなるものなのでしょう?

いま北朝鮮が力を入れているのは軍事偵察衛星、核弾頭、ミサイル等の開発です。衛星に関しては、昨年9月に北朝鮮の金正恩総書記が訪露して以来、ロシア側の技術提供が加速化したといわれています。核・ミサイル開発に関しては、国連安保理が(ロシアも賛同し)、ミサイル発射や核実験等に対する制裁決議を採択していましたが、近年、ロシアは中国とともに、この制裁を強化する案を拒否権を使って否決しています。また、今年3月には、北朝鮮に対する制裁状況の監視を行ってきた国連安保理の専門家パネルの任期延長を、ロシアが拒否権を発動し否決しました。

ロシアは国連の決議から離脱し、北朝鮮の核・ミサイル開発を容認する側に転じたといってもいいでしょう。この点では中国は北朝鮮に対し厳しい姿勢を崩していませんので、ロシアは北朝鮮にとってまことに頼り甲斐のあるパートナーなのです。

画像なしということは、ロシアと中国の間には、北朝鮮との関係において温度差があるということですか?

中国は歴史的にも北朝鮮に対し長兄として振る舞うところがあり、核・ミサイル開発に関しても中国のコントロールが及ばなくなることを嫌ってきました。それに中国は、台湾問題では米国と激しく対立していますが、欧米との関係悪化を恐れ、国連を重視する姿勢をとっています。ただ、中国の場合は、国連を重視しつつ、その内部で(グローバルサウスを味方につけながら)自らの勢力を浸透させる戦略をとっているといえるでしょう。それに対してロシアや北朝鮮は国連決議を軽視し(ともに制裁を科せられている国だということもありますが)、いわば現状打破を目指す点で利害が一致していると考えられます。また、北朝鮮の金正恩政権にとっては、ロシアは北朝鮮の内政に中国ほど干渉しないという安心感もあるのではないでしょうか。

画像なしつまり、ロシア、中国、北朝鮮による3国同盟的な形にはならないとみてよいのでしょうか?

そもそもロシアにはロシアなりの国益や思惑があり、中ロ関係にしても決して一枚岩だということはありません。プーチン大統領が北朝鮮訪問のあとにベトナムを訪れたことにもそれは見て取れます。昨今のベトナムは中国との関係を深化させていますが(昨年末には中国の習近平国家主席がベトナムを訪問しています)、1979年には中越戦争が起こるなど、歴史的にベトナムと中国は容易ならざる問題を抱えてきました。それに対しソ連はベトナムと特別な友好関係を築いてきましたし、現在もベトナムの兵器はロシアに大きく依存しています。
ウクライナ戦争以来、ロシアは天然資源の売買などを通じ、中国への経済的依存度を高めてきましたが、ベトナムや、さらには東南アジアとの連携を強め、中国以外のパートナーを増やそうとしているように思われます。
プーチン大統領は訪朝前に、朝鮮労働党機関紙の『労働新聞』(6月18日付)に寄稿していますが、そのなかで「われわれ(ロシア)は、ユーラシアにおいて、平等で不可分な安全構造を構築していく」と述べています。この「ユーラシア」という語にロシア独自の戦略が込められているように感じます。実はプーチン大統領は、5月26~28日に、中央アジアのウズベキスタンを訪れ、エネルギー分野での関係を強化しています。

プーチン政権は、ユーラシア圏における新秩序形成という大きなヴィジョンに向かって動き出しつつあり、北朝鮮・ベトナムの訪問もその一環なのかもしれません。
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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。 同大学院修士課程修了。 専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。 俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。 俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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