スマホと戦争

近所にあるドコモの無線中継所。すぐ隣りに民家があるが反対運動が起きた形跡はない。

前回スマホを持ってなくて弱者になっちゃった、というコラムを書いた。
なんでそこまでして私はスマホを持たないか。
なんでこんなに嫌いなのか。
どうしてだっけ?
嫌いな理由は挙げればきりがないほどあるんだけど、決め手になったことが何か、確かあった。今回は、私がスマホを持たない理由を記憶+記録をひもとき、改めて思い出しながら、書いてみたい。

近所の中継所(右奥のタワー)から300mくらいのところに私が通った小学校(左手前)があるけど反対運動が起きたという噂はきかない。

切り抜き帳の「スマホ」と見出しをつけたページに、2018年11月1日付の、ある記事の切り抜きが貼ってあった。「ソフトBも値下げ検討 携帯通信料金 政府要請に対応」という見出し。
菅官房長官が携帯大手に繰り返し料金値下げを求めた。それを受けてNTTドコモは値下げを発表、KDDIも値下げの方向を示したのに加えて、ソフトバンクもついに孫社長が「(要請を)真摯に受け止め、しっかり対応する」と話し、全ての携帯大手が値下げの方向で足並みがそろった。
という内容。(東京新聞)

そう、この記事で、今まで感じていた携帯への嫌悪感、ぼんやりした疑惑が、びよ~~ん!と、こわれたエキスパンダーのように私の中で広がったのだ。

2013年秘密保護法、2015年安保関連法、2017年テロ等準備罪、菅氏が官房長官をつとめる安倍政権は、次々と恐ろしい法律を成立させ、この国を戦争に近付けていた。
国民にとって戦争ほどヤなものはないのに。いや国民ばかりか人類全体にとってもすべての地球上の生物にとっても、ばかりか非生物である建物とか、ぬいぐるみとか、土とか、海とかにとっても戦争はとにかく最低最悪な、もっとも忌避すべきものなのに。

こういう風に携帯タワーが屋上に建ってるマンションは、設計段階ではこんな重いの載せること想定してないので、建物強度が弱くなっちゃってる上に、住人は低周波の電磁波を被爆し続けることになるらしいが(荻野晃也『危ない携帯電話 増補改訂版』緑風出版)、たぶん住民運動は起きていない。

自国をわざわざディストピアに近づけている政権の官房長官が携帯会社に値下げしろと圧力をかけた。
そして大手がホイホイと従った。
スマホが安くなったら、今持ってない人も次々に持つようになるだろう。この政権はそのようにしたい。
戦争ができない国だった日本を戦争ができる国にしつつあるこの政権が、今持っていない人にスマホを持たせたい。貧乏な人にも持たせたい。そう願い、強引に企業に値下げをさせた。
何を狙ってるのか、菅氏や政権の真意はわからないけど、これはなんかあるゾ、なんかきっとヤバいゾ、て感じ、とにかく彼らが持たせたいものを私は持つまい、って思ったのだ。

その少し前、2018年9月の切り抜きでは、厚労省の推計で、ネット依存の中高生が全体の7人の1人にあたる93万人もいた。で、対策強化が求められる、と書かれている。
対策強化をしないとなんないのに、逆に菅氏は会社への圧力という乱暴な手法で、スマホをさらに普及させようとした。しかも文部科学省がスマホの学校への持ち込みを禁止した通知を見直すことにした。2019年2月付けのそんな切り抜きも見つかった。

携帯出始めの頃、私の周囲では携帯に否定的な人が多かったし、特に電波の子どもへの影響、というのが言われていた。学校のそばに基地局を作らないで!という運動とかもあったと思う。でもそれから十数年経ったその頃(2010年代後半)は、もう誰も「電波の健康への影響」なんて言わなくなってた。その問題は、知らない間に解決してたんだろうか?電波はいくら浴びても安全とわかったんだろうか?ずっとそれも気になっていた。

見上げると、空は電波だらけだ。

その答えにたまたま出会ったのは、2021年5月。
”農薬”に関する新聞の日曜版の中に、こんな一行を私は見つけた。

「2B 発がん性があるかもしれない:携帯電話などの無線周波電磁界、ガソリンの排ガスなど」

それは国際がん研究機関(IARC)というWHOの専門機関が2015年に発表した、化学物質や環境などの発がん性の分類で、記事は農薬(グリホサート(除草剤))の危険性(1ランク上の「2A」に相当)を知らしめるためにその一覧表を載せた。で、その表の中に携帯電話の電波があった。というわけだ。

もう誰も取り上げることのなくなった携帯電話の電波は、「発がん性があるかもしれない」。
安全性が確認されたわけじゃなかったんじゃん! わかんないままなんじゃん!
でももう誰も突っ込まないから、きっと調べてもいないんだよ! 調べて、発がん性があったらきっと政権が、ていうか世界中の国家権力たちが、世界中の利権者たちが、そしてすでにスマホ漬けになってる地球人たちのほとんどが、困るんだよ。

アンテナいろいろ。こんな地球には宇宙人も恐くて寄って来ないだろう。

携帯からスマホの時代になり、1億総スマホの時代になり、私たちの生活は前回述べたように便利になった。僻地の人、障害者にも、スマホは恩恵をもたらした。そう、スマホはいいこともたくさんしている。でもそれでも私はスマホが嫌い。写真をいくらでも拡大して人の顔のアラをいくらでも暴けちゃうところも、スマホ見ながらすごいスピードで走って来る恐い自転車が多くなったところも、視力が極端に悪い娘が目薬を何度も差しながら、四六時中スマホを見てる、もうこの年代はそうしないと生きていけなくなってしまったところも。

そして2022年12月。新聞にびっくりするような記事が載った。
「防衛省が人工知能(AI)技術を使い、交流サイト(SNS)で国内世論を誘導する工作の研究に着手したことが、複数の政府関係者への取材で分かった。インターネットで影響力がある「インフルエンサー」が、無意識のうちに同省に有利な情報を発信するように仕向け、防衛政策への支持を広げたり、有事で特定国への敵対心を醸成、国民の反戦・厭戦の機運を払拭したりするネット空間でのトレンドづくりを目標としている。」(2022年12月10日 東京新聞)

繰り返し菅氏が値下げを求めたこと。いつのまにか誰も「電波の安全性への疑問」を口にしなくなったこと。いつのまにか小学校でも授業でインターネットを使うようになったこと。
私の中でそれらがひとつの線でつながった。そしてその線の先に、ものすごく恐いものがあった。
そしてこんな恐ろしいことが分ったというのに、なぜかこの問題は大きく取り上げられることもなかった。

だからやっぱり私は携帯が嫌い。スマホが嫌い。本当に嫌い。とことん嫌い。
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★「車掌」かるた大(小)会in 根津のお知らせ★

*塔島ひろみが主宰するミニコミ車掌。その27号(かるた)を仕上げるためのかるた取り大(小)会が今後、何回か開かれます。第1回は5月25日(土)不忍通りふれあい館(根津)にて14時から。

第2回は7月6日(土)場所未定。その後も車掌かるた係のX(https://x.com/63kSAKH6BL7UIZQ)で情報都度更新していきます。
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塔島ひろみ<詩人・ミニコミ誌「車掌」編集長>
『ユリイカ』1984年度新鋭詩人。1987年ミニコミ「車掌」創刊。編集長として現在も発行を続ける。著書に『楽しい〔つづり方〕教室』(出版研)『鈴木の人』(洋泉社)など。東京大学大学院経済学研究科にて非常勤で事務職を務める。


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