国際人権規約に定められているように、大学など高等教育の学費の漸進的に無償化していくことを、日本政府は国連に対して約束しています。これは民主党政権時代の決定ですが、現在の政府もその立場を引き継ぐ必要がありますし、安倍政権時代には当時の閣僚の方々もそのように答弁していました。
そのことを忘れているのか無視しているのかはわかりませんが、ここ数週間、国立大学の授業料の値上げに関するニュースが続々と飛び込んできています。
最初は慶應義塾大学学長による発言でした。
「国立大の授業料を年間150万円に」慶応トップの提案に反発も…「公平な競争」に必要なことって?https://t.co/uwR5fS8uC9
東京新聞 TOKYO Web— 東京新聞編集局 (@tokyonewsroom) April 24, 2024
私立大学への補助金に比べると国立大学の運営交付金が多いこと、その結果として国立大学の授業料が私立大学よりも安く、それは不公平だから国立大学の授業料を大幅に高くせよという主張でした。国公私立大学間の「不公平」をなくすためには、「私立大学への補助金を増やせ」という要求をするべきなのに、何を言っているのだろう?と思いました。ただこういう主張はたまに出てくるので、その時点では気にしていませんでした。
そうしたら今度は東京大学が、学費引き上げの検討を表明しました。
慶應義塾の塾長が国立大の授業料を3倍にする提言をしたときはバカすぎて無視していた。すると東大が学費の値上げを検討との記事。日本は滅びるのか?世界の3分の1が無料、3分の1は格安、残り3分の1の授業料が高い国に日本は入る。国力低下の大きな要因が教育費・研究費の削減。国立だけでも無償化を! https://t.co/pBOYjMHWnx pic.twitter.com/0XqWXn8Cfe
— 諸岡浩太郎 (@memento_moreau) May 17, 2024
これに対しては、ちょうど春の学園祭が開催される東京大学で学生たちも反対の声をあげています。
おはようございます。
五月祭がいよいよ幕を開けました。
学費値上げ阻止に向け、私たちも頑張ります!#学費を上げるな pic.twitter.com/VTB0SMvCoO
— 五月祭学費値上げ阻止緊急アクション (@no_raise_ut) May 18, 2024
東大の五月祭にきています。 pic.twitter.com/301kG9IB8Y
— おきさやか(Sayaka OKI) (@okisayaka) May 19, 2024
② 公費で解決すべき問題の学生への転嫁
大学は値上げの理由を経営難にあるとしていますが、それは、まず何より、立場の弱い学生よりも、大学や国の運営交付金によって解決すべきものです。国による運営交付金の削減こそが問題の根にあります。(東京大学授業料値上げの問題点2/4)
— 東大学費値上げ反対アクション:文学部連絡会 (@bungaku_noraise) May 18, 2024
学生自治会も、情報公開と意思決定への学生参画を求める要望書を出したようです。
【学費値上げの報道に関する要望書を提出!】
東京大学が学費を最大10万円値上げすることを検討しているとする報道に関して、本会は教養学部に対し、情報公開や学生の議論への参加などを求める要望書を提出しました。詳しくはこちら。https://t.co/I8ZjpSO0KH— 東京大学教養学部学生自治会 (@todaijichikai) May 17, 2024
そうしたらなんと、自民党が国立大学の授業料値上げの提言をまとめたそうです。
国立大学国際的競争力強化には運営費交付金を増額し、安定した研究を促せば良い。「適正な」授業料とは何だ。経済的理由で進学を諦める子どもがいることが国民経済的に損だとなぜ分からない。
《国立大学、競争力強化へ適正な授業料を 自民調査会が提言》https://t.co/W4bNUvu8oC— KoichiroKOKUBUN國分功一郎 (@lethal_notion) May 18, 2024
「政府は漸進的無償化の約束に縛られるから、国立大学の授業料値上げを進めることはできない。値上げをするとしてもおそらく『個別の大学が勝手に値上げしました』という体裁をとるのではないか?」と個人的には思っていたのですが、見通しが甘かったかもしれません。
国立大学への運営交付金は年々減らされて、現在では地方大学を中心に、高騰する電気代すら払えないという話を聞きます。日本の研究者による研究論文の数も減っていることから、「お金が必要だ」という自覚は自民党も持つようになったのです。そうであれば、運営交付金を元に戻せばよいわけで、授業料の値上げというのは変な話です。
日本の大学の国際競争力を高めるのに必要なことは、教育への公費支出をOECD加盟国の平均まで高くして、各大学への運営交付金や補助金を増やすことでしょう。国公私立での競争が不公平だというなら、私立大学への補助金を多くすることであり、国公立の授業料を高くすることではないでしょう。
また、大学の少ない地域に生まれ育つ若い人たちに、大学・高等教育進学機会を確保することも、公平さという点では重要です。この点に関して言うと、国公立大学は全国各地にある程度分散していて、安めの授業料で学べる大学が地域にあるということは重要なことでもあると思います。
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