5月に入ってから、中国やロシアの首脳の動きが活発化しています。中国の習近平国家主席は5日~10日、4年半ぶりに欧州諸国(フランス、セルビア、ハンガリー)を歴訪しました。ロシアのプーチン大統領は7日に5期目となる大統領就任式を執り行い、9日には対独戦勝記念日の演説で国民の結束を呼びかけました。両国首脳は今月下旬に北京で首脳会談を行うことも決っているようです。こうした共同歩調ともとれる中露トップの動きは、国際政治に対する新たなアプローチの表れなのでしょうか?
国際政治における中露の存在感や影響力の大きさは改めて言うまでもありませんが、それを行使して両国が現状を大きく変えようとしているというふうには私はとらえていません。というのは、後述するように、両者にはスタンスの違いも見られるからです。
まず中国について言えば、昨年(2023年)2月24日に中国は、「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」と題した12項目にわたる文書を公開し、ウクライナ停戦の仲介役を買ってでましたが、結局は尻すぼみとなり、今回もウクライナのゼレンスキー大統領と会うことすらしませんでした。当事者が矛を収めようとしない以上、中国としても為す術なしということかもしれませんが、この点は私としては期待外れでした。
習近平氏の訪欧の目的は割とはっきり見て取れます。近年、欧州諸国が中国の「一帯一路」から撤退し、逆に中国経済拡大への脅威論(特に中国製の電気自動車に対する警戒感)を強めていること、そして〈欧米VS.中露〉という対立構造が顕現化していることに対し、習近平政権も何か手を打つ必要があると考えているのでしょう。
そこで欧州の中で独自の外交路線を追求するフランスのマクロン大統領と会い、中国が「欧州のパートナー」であることをアピールしたわけです。マクロン大統領も、欧州委員会のフォンデアライエン委員長を同席させ、ともかくも中国との「公正な貿易」を支持する姿勢を一致して示したのでした。中仏首脳は、「パリオリンピック期間中、すべての紛争当事者が休戦する」よう呼びかけ、平和の擁護者という立場も誇示しました。
マクロン大統領は5月2日付で配信された英誌『エコノミスト』とのインタビューで、ウクライナ戦争の戦況次第では、地上軍のウクライナ派兵も排除しないとする持論を述べ、物議をかもしましたね。ロシアに対しては非常に挑発的な発言でしたが、中国に対しては融和的なのですか?
融和的というのではなさそうです。今回の中仏首脳会談でも、習近平氏に対し、「中国がロシアに武器を売却しないことを約束させた」とのことですから(会談後の記者会見でのマクロン氏の発言)、言うべきことはきちんと言うというスタンスだと思います。マクロン大統領は、ドゴール元大統領の「ドゴール主義」を継承し、米国には追随しない独自外交を貫こうとしているのでしょう。
実はこれはフランスに限ったことでなく、欧州は必ずしも一致団結しているわけではありません。習近平氏が訪問したセルビアとハンガリーもそれぞれ独自の外交姿勢をとっています。セルビアは中国の友好国で、「一帯一路」に加盟していますし、台湾政策でも中国政府を支持する姿勢を示しています。中国にとっては、欧州への経済拡大のための重要拠点でしょう。ハンガリーも、中国やロシアとの関係を重視し、むしろ他の欧州諸国と孤立を深めているほどです。中国は、地理的に欧州の中央に位置するハンガリーを貿易の拠点と見なし、ハンガリーへの経済協力を強化させています。要するに中国としては、こうした欧州の多様性を見逃さず、着実にパートナーを増やしつつ、欧州が米国主導の対中国包囲網に組みしないよう外交を展開しているのです。
比較的柔軟な中国に比べると、ロシアは頑なな立場を崩していないように見受けられますがどうですか?
中国と違いロシアは戦争当事国ですから、一歩も引くわけにはいかないのでしょう。むしろこの数日、ロシアはウクライナに対し一段と攻勢を強めています。
しかしロシアがこのまま戦争の継続を望んでいるのかといえば、そうとも言えないのです。先日(5月7日)の大統領就任演説で、プーチン氏は対等な形であればという条件付きですが、西側との対話を求める発言を行いました。
5月9日の対独戦勝記念日でプーチン大統領は、核の使用を含めた臨戦態勢の堅持を唱え、改めて強い姿勢を示しましたが、他方で国防大臣の交代を決めるなど、何かしらの見直しに着手しようとしているようにも見えます。
ロシアのタス通信は5月6日、プーチン大統領が5月中に中国を訪問すると報じました。近日中にその具体的な日程が発表されるものと思われます。
かたや欧州との関係改善を目指し外交を展開している中国の習近平氏、かたやウクライナ戦争を続けるプーチン大統領、この両者が北京で何を話し、いかなる声明を出すのか、興味深いところです。両者のスタンスの違いを考えると、中露が一致団結して国際関係を大きく改めるという事態は想定できませんが、この首脳会談において、世界が緊張緩和に向かう兆候が少しでも見出せるのか否か、しっかり見届けたいと思います。
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