「マニュアル・制度絶対化」は危険

教育現場に限った話ではありませんが、人が複数関わる職場や組織においては、業務を効果的に回すための公式・非公式のマニュアル的なものが存在します。どの学年のどの教科で、何を教えるかについての大枠を定めている学習指導要領も、その一種と言えるかもしれません。また、教職員などの業務に携わる人の任用や、予算の執行などについては、決められた制度があり、その範囲で運用されます。
他方で、マニュアルにせよ制度にせよ、業務を効果的に行うための手段として存在するものなのに、そのことを忘れて「マニュアル絶対化」とでも呼べるような現象が生じることがあります。さらに、教育現場の実態は現場を少し離れると見えづらいものである上に、教育行財政等の意思決定に携わっている人たちは、学校現場に行ったこともなかったりして、教育実践についての知識が少ない場合が多いのです。そのため、「マニュアル絶対化」が起きて教育現場が危険な状況に陥っていることに気づかないまま、マニュアル絶対化をさらに進めるような意思決定が行われることもあります。
奈良と東京で起きている2つの事象は、一見別々の事柄ですが、根底は同じであるような気がします。
奈良教育大学附属小学校の話は、2月1日の記事でも書きました。その後、このようなwebサイトも作られていて、状況を心配する教育学研究者の声が寄せられています。


教員全員を他校に出向させるという方針まで出されました。


あいち県民教育研究所の声明に寄稿している折出健二(愛知教育大学名誉教授)さんの分析では、奈良教育大学と奈良女子大学を所有する法人である奈良国立大学機構という上位組織では、附属小学校という教育現場のことまでは理解できないという趣旨のことが書かれていて、さもありなんと思いました(下記リンクはPDFファイルです)。
あいち県民教育研究所による緊急声明はこちらから読めます
東京では、スクールカウンセラーの大量雇止めが発生しています。会計年度職員という不安定雇用制度が原因にあり、スクールカウンセラーをそのような雇用形態に置いておくことにそもそもの問題があります。それに加えて、制度を絶対化したような運用の仕方が、学校現場で頼りにされているカウンセラーの方が失職する事態につながっていると言えそうです。カウンセラーを頼りにしている子どもや保護者は、しんどい状態にある場合が多いにも関わらず、カウンセラーを簡単に入れ替えるという判断が行えるというのは、実態をあまりにも知らないと思います。


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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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