従来ポーランドは、ロシアに侵略されたウクライナを最も強力に支援してきた国の一つでした。当初から大量の避難民を受入れ、武器援助も先頭に立って行ってきました。ポーランド国民も、第二次世界大戦でソ連に占領された体験をもつだけに、ウクライナの人々に寄せる思いは格別のものがあると言われます。
ところが最近、そのポーランドがウクライナと鋭く対立しています。一体両国の間に何が起こっているのでしょうか?
この対立がクローズアップされるきっかけとなったのは、ゼレンスキー・ウクライナ大統領の国連総会における演説です。9月19日、国連総会の一般討論演説のなかでゼレンスキー大統領は、具体的な国名を挙げなかったものの、ポーランドその他の中・東欧諸国を念頭に置いて「連帯を示しているようにみえるが、実際にはロシアを手助けしている」と非難したのです。
これに反発したポーランド政府は同日、「ウクライナを支援してきたポーランドに対する不当発言だ」と非難し、同国のドゥダ大統領も報道陣に対し、「ウクライナは水に溺れている人のように何にでもしがみつく。救助者をも溺死させかねない。非常に危険だ」と発言しました。翌20日、ポーランドのモラウィエツキ首相は、地元テレビで「ウクライナへの武器供与を停止する」とまで述べました(『日経新聞』2023年9月22日、『朝日新聞』2023年9月22日など)。
何が原因でこのような非難の応酬に至ってしまったのですか?
ウクライナ産穀物の輸出問題が根底にあります。昨年以来、ロシアによるウクライナ侵攻と黒海の貿易拠点攻撃のため、海上輸送が中心だったウクライナ産の穀物は、欧州を経由する陸路での輸出が増えました。EUは、ウクライナ支援策の一環として、ウクライナ産穀物への関税を停止したために、勢い欧州諸国に対するウクライナ産穀物の輸出高が大幅に増大したのです。特にその影響を大きく被ったのは、ウクライナ近隣の5ヶ国、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、ルーマニア、そしてブルガリアでした。
これら5ヶ国は、新型コロナウイルス禍やエネルギー価格高騰の影響で、自国の農産物の価格が上昇気味でしたが、そこへ安価なウクライナ産穀物が流入するようになったため、大問題となったのです。すなわち相対的に高価な自国農産物が売れなくなり、農業関係者は大反発をし、トラクターで道路を封鎖するなど様々な抗議運動を展開しました。
そこでまずポーランド政府が今年4月、ウクライナ産穀物輸入停止に踏み切りました。他の4ヶ国もこれにならいました。EUの欧州委員会も理解を示し、特例としてこの輸入禁止措置を期限付で認めました。
9月15日、EU欧州委員会は、「すでに十分な効果をあげた」として、この禁輸措置を同日付で撤廃すると発表しました。これに対し、ポーランド、スロバキア、ハンガリーの3ヶ国は、独自に禁輸を続ける旨発表し、ルーマニアも禁輸延長を検討しています。ブルガリアは禁輸解除を受入れる方針のようです。9月18日、ウクライナ政府は同国産穀物の禁輸を継続するポーランド、スロバキア、ハンガリーの措置を不服として世界貿易機関(WTO)に提訴しました(『讀賣新聞』2023年9月20日)。
このような事情を背景として、ゼレンスキー大統領が国連総会の場で先のような発言を行い、それにポーランドが反発したわけです。ポーランド政府は、ウクライナの穀物輸出に規制を設けないかぎり、同国のEU加盟に同意しないとの姿勢も示しています。
ウクライナとポーランドの対立は泥仕合の様相を呈してきたように思われますが、これはロシアを利することになりませんか?
そのとおりです。ポーランドによるウクライナへの武器供与停止は、ウクライナの士気にも影響を及ぼすでしょうし、他の国々もポーランドにならう可能性があります。
実のところ他の欧州諸国もウクライナに対しては「支援疲れ」を見せています。せっかくゼレンスキー大統領が国連総会の場で演説をしたのに、常任理事国の首脳で出席したのは米国のバイデン大統領のみでした。フランスのマクロン大統領も、英国のスナク首相も内政事情を理由に欠席したのです。欧州だけではありません。ゼレンスキー氏の演説時、場内には空席が目立ちました。米国内でも野党の共和党は、ウクライナ支援に批判的です。ここにきてウクライナへの国際支援は正念場を迎えているといっていいでしょう。
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