1.日本学術会議による政府への勧告と日本社会への声明
4月17‐18日に日本学術会議の総会があり、そこに未定稿の法文案が提示されました。毎年の事業計画の策定と政府の意見を聞く形での評価の義務付け、会員選考方法の変更(選考諮問委員会の設置)など、日本学術会議の独立性を損ない、同会議の活動を制約する(妨害する)ような内容の法案であったことなどから、日本学術会議は政府に対する勧告と日本社会に対する声明の発出を行いました。その中で学術会議は、今国会中の法案提出の見送りと、学術会議の在り方等に関して開かれた場での議論を行うことを求めています。
日本学術会議の勧告
「政府は、現在、立案中の日本学術会議法改正案の第 211 回国会(通常国会)へ の提出をいったん思いとどまり、日本学術会議のあり方を含め、さらに日本の学 術体制全般にわたる包括的・抜本的な見直しを行うための開かれた協議の場を 設けるべきである」https://t.co/7kMYerxHmX— おきさやか(Sayaka OKI) (@okisayaka) April 19, 2023
振り返れば菅政権の任命拒否以降、政府の法案作成過程はブラックボックスのままでした。学術会議に対する一方的な説明は2回ほどありました。私はそのうちの1つを傍聴しましたが、「内閣府で検討しているが、当事者である学術会議にはこうやって(丁寧に)説明をしに来ている」という説明の中で、ちらりと(思わず?)「自民党PT」という言葉があり、学術会議の幹事の皆さんがそれはどういうことかと問いただすという場面のありました。
学術会議法の変更のような体制変更がある場合は通常、公開の場での審議会などを開催するわけです。自民党の方が意見を言うことは問題ありませんが、影から口出しをするようなやり方ではなく、開かれた場で堂々とした議論が行われる必要があると思います。
2.民間組織にするという報道について
18日に発出された勧告と声明に先立って、アメリカ、フランス、ドイツ、イタリアのアカデミーから、日本学術会議の独立性を脅かす日本政府の動きに懸念を表明するレターが届いていました(今後も増えるかもしれません)。また、世界のノーベル賞受賞者による懸念表明もありました。日本国内の多くの学協会も学術会議に賛同を示す声明を発出しており、これらの動きはおそらく、日本政府の法案提出見送り判断に影響を与えていたのだろうと思います。
政府は、今まで散々、日本学術会議抜きで、改正案の話し合いを重ねておきながら、米英仏伊のアカデミア会長、世界61人のノーベル賞受賞者らの改正案への懸念が表明され、18年ぶりに学術会議からの勧告を突きつけられると、法案提出の見送りを突如、表明した… https://t.co/BGrmaV1YYW
— 望月衣塑子 (@ISOKO_MOCHIZUKI) April 20, 2023
法案がいったん見送られたのはよかったと思いますが、(私からすると)なぜか今になって、「日本学術会議を民間組織にすることを検討」という報道が出てきました。実はこのような検討は年末までになされており、政府の組織以外の形に組織変更することの積極的なメリットは見当たらないという結論が出ていたためです。
このことは、「学術会議のあり方」の問題であると同時に「日本の国の政府の形」の問題でもあります。日本学術会議は、政府の中にあって学術に従う独立した組織です。政府の下にある、各種の専門家会議とは役割が異なります。そして「学術会議のような組織を内側に持っていること」が戦後の日本国政府の形だったわけです。それをやめてしまって良いのでしょうか?
また実際のところ日本学術会議は、学術面での外交を担っていることから、政府の組織でなくなってしまうと、実は政府が困るのではないかという指摘もあります(だから年末に、政府の組織であり続けるという結論が一度は出ていたのでしょう)。秋以降の臨時国会でどのような動きがあるか、注意が必要かと思います。
多分、自民党の強行派の方々からあまり見えていないのは、学術会議が今のところ国際的な科学外交に関する窓口だという点でしょうね。今後どういう組織にするにしてもこの部分は容易には変えられず、これまでの経緯も筒抜けなので、変なことをするとかなり外聞の悪いことになる。
— おきさやか(Sayaka OKI) (@okisayaka) April 21, 2023
3.「コロナ渦で学術会議が役に立たなかった」との指摘があるとの報道について
ここ数か月の法案提出可能性をめぐる経緯の中で、個人的に気になっているのは、「与党や政府には、コロナ渦で学術会議が十分な貢献をしなかったという認識がある」という趣旨の報道を頻繁に見かけたことです。これは変な指摘だと思います。学術は目の間にある問題に対して、1つの選択肢を提示するということはしません(それは政府の下にある専門家会議等の仕事です)。多様な可能性を示したり、特定の選択がされた場合の影響を多角的に予測したりするのが学術の仕事です。学術会議が今後に真価を発揮するのは、これまでに行われた政策判断を長期的で広い視野から検証したりすることを通じて、次のパンデミックの発生に備えることであろうと思います。そしてそういう存在が政府の中から消えてなくなれば、コロナ渦をめぐる様々な経験から適切な教訓を得る機会を、私たちは逃してしまうのだろうと思います。
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