「カナリア俳壇」78

寒中お見舞い申し上げます。
今週は大寒波が襲来するようですが、皆さんもどうぞご用心ください。わたしも「大寒波来るらし講義短めに」と詠んだところです。

△~○搗き立てのぷわぷわ餅に手こずりし     白き花
【評】「手こずりし」が抽象的な説明ですので、「手こずっている」と言わずに手こずっている様子を具体的に描写したいところです。「搗き立ての餅掌にぶはぶはと」など。

○~◎枇杷の花丸く温(ぬく)とく連なりて     白き花
【評】枇杷の花は連なるというより、かたまって咲いている感じですが、その花をしっかりと、具体的に描写しようとする姿勢はたいへん結構です。

○父の着た丹前探す寒き夜     作好
【評】口語俳句ですね。これでもけっこうですが、上五を「亡き父の」とする手もありそうですね。

△~○青空にたむしば蕾春を待つ     作好
【評】たむしばは季語になっていないので苦労されましたね。ただ、「木の芽」が春の季語ですから、その傍題として「たむしばの芽」を使い、春の句に仕立ててもよいと思います。「たむしばの花芽ふくらむ青空に」くらいでどうでしょう。

○母の忌にやや濃き味のねぶか汁     美春
【評】生前のお母さんの根深汁もやや濃い味だったのでしょうね。上五は切ってしまったほうがすっきりします。「母の忌や濃いめの味の根深汁」など。

○山あいに吐く湯気上る初景色     美春
【評】「吐く」は無くてもいいように思います。「山あひに湯気上りたる初景色」など。

△~○酒蔵の呟き聞けり軒氷柱     妙好
【評】この呟きは発酵の音でしょうか。しかし戸外までは聞こえてきませんよね。ともかく「聞けり」は言わずもがなですので、省略できそうです。「酒蔵の中より声や軒氷柱」としておきます。

○髭伝ふ寒九の水を猫拭ふ     妙好
【評】「拭ふ」まで言ってしまうと一句が複雑になります。もうすこしシンプルに「寒の水飲む猫髭を滴らせ」くらいでどうでしょう。

○大寒や不意にラジオの電池切れ     多喜
【評】ユニークな句です。「不意に」がやや意味的に強すぎる気がします。「寒の入ラジオの電池切れにけり」くらいのほうが落ち着くように感じました。

○~◎母の笑むテレビ面会春隣     多喜
【評】今日の病院事情ですね。「笑む」と「春隣」がマッチしています。

○冬の日を背に寺への坂登る     恵子
【評】情景はよく見えます。散文調ですので切れが入るといいですね。句跨がりにし、中七の途中に切れを入れ、「背にぬくき冬日寺への坂登る」としてみました。

○~◎城址てふ里のバス停枯木星     恵子
【評】中七までは説明ですが、季語「枯木星」によって詩情が生まれましたね。

○~◎大寒や違ふ形の椅子二席     徒歩
【評】どこかロマンを感じさせる句です。もうすこし具体的に景が見えるとさらによくなりそうです。たとえば海を背景として「冬凪や違ふ形の椅子二つ」など(これだと石鼎の「秋風や模様のちがふ皿二つ」に似てきてしまいますが…)。

○~◎大寒や深き珈琲二杯淹れ     徒歩
【評】自分用とお客さん用かもしれませんね。たしかに寒いときは強めのコーヒーが合いそうです。「大寒や濃き珈琲を二人分」とするのも一法でしょうか。

○~◎サンタ帽の親子見てゐる象親子     万亀子
【評】面白くて、幸福感が伝わってくる句です。「見てゐる」のが人間の親子なのか、それとも象の親子なのかが曖昧ですので、とりあえず「サンタ帽の親子が見をり象親子」としておきます。

○~◎冬ばらを添えてコアラの誕生日     万亀子
【評】これも心楽しい句です。「添え(へ)て」が少々分かりづらいので「冬の薔薇飾りコアラの誕生日」としてみました。

○バス停へ目深にかぶる冬帽子     ひろ
【評】バス停「へ」ですと、まだ向かっている最中ですが、もうバス停にいることにして作ったほうが自然な気がします。「冬帽子目深にバスを待ちゐたり」でどうでしょう。これだと誰かに顔を見られたくない、といったサスベンス調の句にもなります。

○初雪や陣屋うさぎの釘隠し     ひろ
【評】「陣屋」と「うさぎ」の間は切れるのでしょう。とすると三段切れの句になってしまいますので、上五を切らず「雪積もる陣屋うさぎの釘隠し」くらいでいかがでしょう。

△~○寒日和術後の友の経過良し     織美
【評】「経過良し」は説明です。そう判断した理由を具体的に描写しましょう。「寒晴や術後明るき友の声」など。

△~○ことことと戸の鳴る音や寒波くる     織美
【評】「ことことと」と平凡な擬音語で五音使ってしまうのはもったいない。「家の戸も窓も鳴り出す寒波かな」くらいに詠むと迫力が出そうです。

○~◎客去りて一息つきし小正月     千代
【評】すなおな詠みでけっこうです。小正月というのはこんな気分なのでしょうね。「一息つけり」としましょう。

△~○あんこ鍋懐かし友と酒交わす     千代
【評】「懐かし友」ではなく「懐かしき友」ですね。ただ、それだと字余りになりますので、「鮟鱇鍋旧友と酒酌み交はし」としておきます。

◎邪鬼を踏む仁王不動や虎落笛          永河
【評】しっかりと組み立てられた骨太の一句ですね。虎落笛が邪鬼のうめき声のようにも聞こえてきます。

△~○冬日食む賽銭箱はまろまろと     永河
【評】賽銭箱の中に日が差込んでいるのを「食む」と見たのですね。やや言い過ぎの気もします。「まろまろと」というのは丸い賽銭箱なのでしょうか。もうすこし素直な詠みにして「冬の日に賽銭箱のあふれけり」くらいでどうでしょう。

○ふるさとを発ちて五十年(いそとせ)明の春     林檎
【評】形はしっかりできていますが、やや月並み調です。「ふるさと」をもっと具体化するとオリジナリティーが出るように思います。

△~○川の無き郷の島々冬旱          林檎
【評】たぶんどの島にも川がないのでしょうが、「島々」と複数形にすると句が煩瑣になります。とりあえず「川の無き故郷の島冬旱」としてみました。

△~○起きしなに温度たしかむ大寒波     智代
【評】全体が説明調です。「たしかむ」という自分の動作は語らず、物だけで表現した方が力強い句になります。「寒波来る居間に小さき温度計」など。

◎もろ肌に二日灸(ふつかやいと)の煙立つ     智代
【評】これは物だけで表現した大変けっこうな句です。

△~○雪だるま大きく丸め児背比べ     ちづ
【評】調べが悪く、読みづらい句になってしまいました。句意は違ってしまうかもしれませんが、「兄弟の背丈越したる雪だるま」としてみました。

△~○鬼ごつこ着膨れ児足もつるかな     ちづ
【評】意味はわかりますが、調べが悪くすらすらと読めません。「着膨れの児の足もつる鬼ごつこ」でどうでしょう。

○雪まみれ転ぶも楽しスキー場     久美
【評】自分で「楽し」と言ってしまわずに、表現の中から自ずと楽しさがにじみ出るように作ると、さらに俳句の腕が上がります。「スキー場雪にまみれて転ぶなり」など。

△~○神棚に若水供ふ春よき日     久美
【評】「若水」は新春の季語ですから、「春よき日」まで入れると季重なりになってしまいます。「神棚の盃(はい)に若水なみなみと」としてみました。なお、「神棚」ですから「供ふ」は要りません(自明ですので)。

次回は2月14日(火)に掲載いたします。前日13日の午後6時までにご投句頂けると助かります。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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