はや11月ですね。今年も残すところあと二ヶ月と思えば、気持ちも引き締まります。すこしでも多く今年の会心作と呼べる句を詠んでいきたいものです。
△晩鐘や跪き居て秋の暮 作好
【評】この句は「晩鐘や」で切れ、「跪き居て」でも切れています。一句のなかで2か所に切れが入ることを「三段切れ」といいます。一句が3つに分断されるためです。これは俳句ではご法度とされます。上五が切れないように直しましょう。「晩鐘に跪き居て秋の暮」。あるいは中七の切れをより明確にし「晩鐘に跪きをり秋の暮」。
〇~◎厨には取れ立て野菜今日の秋 作好
【評】ご自分の畑で採れた野菜でしょうか。すなおな作でけっこうです。
△まだ青き空の晩鴉や秋澄めり 恵子
【評】「まだ青き」は「空」の形容ですが、この句形ですと「晩鴉」に掛かっているようにも読めますので、「空に」としたほうがいいかもしれません。また、「青き空」で澄んでいることが分かりますから、季語は別のものをもってきたほうが効果的でしょう。「まだ青き空に晩鴉や遠案山子」など。
〇秋晴や体操服の列眩し 恵子
【評】校庭での景でしょうか。晴れていますので、「眩し」は言わなくてもいいかもしれません(読者の想像力に委ねましょう)。その分、もうすこし写生を深め、たとえば「秋晴や体操服の子等二列」などと工夫する手もありそうです。
◎老木にひと足早き冬の風 美春
【評】老木に自分自身を重ねているのですね。この時期にしては思いのほか寒い風が吹いて、骨身にしみたのでしょう。
〇鉄塔に遠を見詰むる寒鴉 美春
【評】「遠」は「おち」でしょうか。哀愁を感じさせる句です。「鉄塔」と「寒鴉」を近づけると、より統一感のある句になります。一例として「遠い目をせし鉄塔の寒鴉」。
〇三味を聴く能楽堂や菊日和 久美
【評】一読、おだやかな気持ちになりました。「能楽堂」と「菊日和」という和を感じさせる物同士の取り合わせもけっこうです。
△朝焼けの金木犀や漂ひぬ 久美
【評】「朝焼」は夏の季語ですので、できれば避けたいところです。とりあえず「匂ひ立つ金木犀や朝ぼらけ」としておきます。
〇霜の夜やアッサム茶葉は湯に躍る 音羽
【評】「アッサム茶葉は」の「は」がやや強すぎる気がします。「湯に躍るアッサム茶葉や霜の夜半」としてみました。
〇峡の田の落穂ついばむ夕鴉 音羽
【評】「峡の田の」か「峡の田に」かで迷っているとのこと。この句のとおり「の」がよいと思います。「に」ではちょっと間延びした感じになってしまいますので。中七を「落穂つつけり」として、切れを明確にすれば、さらにシャープになります。
◎秋の山力士の如く並ぶなり 白き花
【評】色づいた秋の山が派手なマワシを付けた力士を連想させます。「並ぶなり」という古風な表現もこの句にどっしりとした印象をもたらしています。
◎烏瓜庭に夕陽の一欠片 白き花
【評】「一欠片」は「ひとかけら」と読むのですね。朱色の烏瓜の実と夕陽の一欠片が相似形のように見えてきました。
〇秋澄めり巫女の浮かぶる花手水 妙好
【評】巫女が浮かべるのは「花」であって、その花が浮かんでいる手水が「花手水」では?「秋澄めり巫女の作りし花手水」でしょうか。
〇深秋や蓑虫庵の縁に座し 妙好
【評】深秋らしい景です。この句形ですと下五は「座す」のほうがいいかもしれません。「座し」であれば、上五を「秋惜しむ」としたほうが落ち着きそうです。
△~〇連理とふ太き神木空高し 徒歩
【評】連理木が太いのは自明ですので、もう一工夫ほしいところです。一例ですが、「連理とふ神木の空澄みにけり」など。
〇出し物の小道具壊す文化の日 徒歩
【評】「壊す」だと出し物が終わってしまった感じですが、これから出し物が始まるとすれば、「出し物のかつら失せたり文化祭」などとするのも面白いかもしれません。
△~〇起きがけの白湯の甘さや秋寒し 智代
【評】この句は「甘さ」という感覚(味覚)に気持ちが集中しているわけですから「寒し」という別の感覚をもってくるのは、作句上あまりよくありません。つまり感覚の意識が分散してしまいます。「起きがけの白湯の甘さや冬隣」など。
◎莢打てば大豆転がる藁むしろ 智代
【評】情景がしっかりと見えてきます。大豆の転がる様子が藁むしろの乾いた感じとよくマッチしています。
△~〇洗濯は深夜電力秋深む 織美
【評】深夜に洗濯機を回すのは、電気代を節約するための知恵ですね。ただ、この句に詩的ときめきがあるかどうか。「深」という漢字の重複も気になります。とりあえず季語を工夫して俳諧味を出したいと思います。「洗濯は深夜電力おけら鳴く」。「このままじゃオケラになりそうで、本当はわたしが泣きたいの」という気持ちを読者が汲んでくれたらもっけものです。
〇秋晴れの祭り支度や左縄 織美
【評】縄のなかでも神事に使うのが左縄なのですね。切れの位置を変えるとさらによくなります。「秋晴れや祭り支度の左縄」。
〇~◎疲れ鵜の鳴き合うて嘴重ねあふ 紅子
【評】情のこもった句ですね。「合うて」と「あふ」が重複気味ですので、たとえば「疲れ鵜の鳴きつつ嘴を重ね合ふ」とするのも一法でしょうか。
◎六艘が列に鵜篝なびかせて 紅子
【評】観衆へのお披露目でしょうか。なかなか壮観ですね。「いざ出陣」という気迫が伝わってきました。
△~〇蘆原のとりどりのこゑ雲と風 永河
【評】「とりどりのこゑ」がやや漠然としています。また、「蘆原の」としますと、視線は自ずと大地を向きますので、「雲」が活きてきません。添削というより別の句になってしまいますが、「雲を追ふ風のこゑして蘆の秋」と考えてみました。
◎抱かれる子は安らかに実紫 永河
【評】ふと菩薩に抱かれている赤子が思い浮かびました。「実紫」という具体的な季語を置くことによってリアリティーのある句になりました。
△初時雨母の形見の冬支度 千代
【評】「形見の冬支度」がよくわかりません。また「初時雨」と「冬支度」という季重なりもいけません。季語は一つに!まずはここからスタートです。
△色づきし紅葉の里の秋祭り 千代
【評】「紅葉」も「秋祭(り)」も秋の季語です。どちらか一つに絞って作り直してください。俳句では季語を1つだけ使うのが原則です。
△~〇道草の跡ありありと盗人萩 万亀子
【評】最近刊行された『新版 角川俳句大歳時記 秋』にも「盗人萩」は出てきませんので、これを季語としていいかどうか迷うところですが、「萩」の一種ということでよしとしましょう。ただし、このままでは下五が字余りで、調べがよくありません。「道草の子の背盗人萩あまた」など、もうすこし推敲してみてください。
〇日当たりて紫紺輝く鳥兜 万亀子
【評】大体けっこうですが、日が当たっていれば輝くのは当たり前です。「日当たりて」にもうすこし意味を付け加え、「朝の日に紫紺輝く鳥兜」くらいでいかがでしょう。
△~〇山削る工事現場の猿茸 ゆき
【評】「工事現場の猿茸」ではあまりに漠然としています。工事現場に生えている木の猿茸でしょうね。うまい添削例が浮かびませんが、とりあえず「山削る重機のこぼす猿茸」。
〇秋うらら羅漢の軸の御開帳 ゆき
【評】「御開帳」は春の季語ですので、できれば別の言葉を使いたいところです。「広げ観る羅漢の軸や秋うらら」など。この添削例のように、季語を下五に置くと安定感が増します。また、「秋うらら」を最初に持ってくると、読者は戸外の景と早合点してしまいますので、その点でも下五にもってきたほうがよいでしょう。
◎井戸端の盥で洗ふ落花生 多喜
【評】写生の行き届いた即物具象句です。大変けっこうです。
〇なんきんのランタン点す夕餉かな 多喜
【評】ハロウィンの風景ですね。とりあえずきちんと出来ていますが、もうすこし表情のある句に推敲できるかもしれません。「晩餐や南瓜ランタンでんと置き」「食卓に南瓜ランタン灯しけり」など。
次回は11月22日(火)の掲載となります。前日の午後6時までにご投句頂けると幸いです。皆さんの力作をお待ちしています。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。