このところ寒暖の差の激しい日が続いていますが、皆さんお変わりなくお過ごしのことと思います。どこを向いても季語が見出せるのは、句作にとってありがたいことですね。
△~〇母誘ひ仰ぐ名月妻の留守 一紀
【評】思いの深い句です。しかし、「母」と「妻」の折合が悪くて妻がいるときは母を呼べないのかなと勘繰ってしまいます。「独り居の母と今宵の月仰ぐ」としてみました。
〇松茸の匂ふ鉄条網の先 一紀
【評】俳諧味のある句です。鉄条網の先は立入禁止なのですね。中七から下五を句跨りにしたことによって、おもしろいリズムが生まれました。
△~〇木犀の匂ふ花こそ小さけれ 永河
【評】「こそ」「けれ」の係り結びも雅で、美しい句ですが、強い芳香を放つのに花は小さいのが木犀の特徴ですので、自明のことを詠んでいるとの印象を受けました。
〇列島は海に抱かれ芒原 永河
【評】上五中七は秀逸な表現です。しかし下五がどうか。「列島」は場所、「芒原」も場所。一句に場所が2つあるとイメージの統一性を欠きます。別のよい季語がありそうです。
△道の駅単車自慢が秋を見に 作好
【評】「秋を見に」が曖昧です。また、「道の駅」よりもっといい場所がありそうに思われます。ちなみに、俳人は「道の駅」という語が好きですが、「道の駅」を用いた句に名句なしと思っていますので、わたしは使ったことがありません。
△~〇秋日和時計忘れて自由人 作好
【評】CMか広告のキャッチコピーを思わせます。時計を外して自由人になるというのは、割と月並な発想です。むしろ俳句をしていることが自由人の証でしょう。
△~〇更科と白抜き暖簾走り蕎麦 あみか
【評】きちんとした即物具象の句ですので、直すべき点はありませんが、「更科」と「蕎麦」ではありきたりではありませんか。
△〇朝霧やベイブリッジの灯の淡く あみか
【評】雰囲気はありますが、霧が出ていれば、灯は淡く見えます。そのへんにちょっと理屈が感じられます。
◎鵙鳴くや寺に極楽地獄絵図 ひろ
【評】「鵙鳴くや」が効果的です。この季語のせいで、鄙びて土着的な雰囲気が出てきました。
〇秋彼岸ひかり纏へり白団子 ひろ
【評】これでは三段切れです。「纏へる」としてください。もっと自然が感じられる季語を選ぶと佳句になりそうです。
〇仲秋やせまき間口の銘菓店 美春
【評】句の形もぴたりと決まっていますね。中秋の名月のためのお団子を買おうとして、この季語が出てきたのかなと想像しました。
〇鈴虫に息をしづめて宵の闇 美春
【評】「闇」そのものが息を静めているようにも読め、おもしろい句と思います。「宵闇」とは言いますが、「宵の闇」という言い方があるのかどうか、自信がありません。要確認です。ただし「宵闇」ですと季語になってしまいますね。
△~〇痩せをりぬ高値の秋刀魚を皿に乗す 白き花
【評】「痩せをりぬ」だと終止形になってしまいますが、上五は連体形にしたいところです。また、中七が字余りですね。「細身なる高値の秋刀魚皿に乗す」でしょうか。もう少し詩情がほしいように思いました。
△我もまた敗れ被れな破芭蕉 白き花
【評】滑稽味をねらった句ですね。どうして作者は破れかぶれなのか、読者にはその事情がわかりませんので、やや独りよがりの感を否めません。
〇秋ともし源氏絵巻の猫見入る 妙好
【評】源氏絵巻に猫の絵があるのですね。「見入る」のは作者ですが、作者自身の行為は説明不要です。源氏絵巻の猫がどんなふうに描かれているのか、写生してほしいと思います。たとえば「秋ともし源氏絵巻の猫寝をり」など。俳句は作者自身の気配を消し、客観写生に徹するのが王道です。
〇はらからの集ふ母の喪八頭 妙好
【評】「母百二歳」と前書があります。大往生でしたね。八頭は里芋の一種ですが、この季語をどう解すべきか。わたしは「八頭」という語からふと子沢山を連想しました。
〇五分粥に散らすさみどり貝割菜 音羽
【評】重複をいとわず、あえて「さみどり」と「貝割菜」を重ねたところが芸達者です。印象が鮮明になり、五分粥が美味そうです。
〇小鳥来る小入峠の晴れ渡り 音羽
【評】滋賀県と福井県の境に位置する小入峠は、殊に紅葉の頃は絶景らしいので、それを知っている人はこの句に共感できるでしょう。ただ、実際の景のイメージに頼り過ぎで、言葉自体の喚起力はやや弱いように思われます。
◎団欒の卓に秋の蚊潜みをり 恵子
【評】家族団らんの明るさと秋の蚊の陰りのコントラストに面白みがあります。「秋」が効果的だと感じました。
〇竹林に群るる野分の雀かな 恵子
【評】雀も竹林に避難しているのでしょうね。「野分」を添え物でなく中心に据えた作りにしたほうがよいかもしれません。「竹林に雀群れゐる野分かな」。
△~〇ハロウィンの南瓜あふるる道玄坂 万亀子
【評】下五が字余りのせいで調べの悪い句になっています。別の句になってしまいますが、作例として「ハロウィンの道玄坂に魔女南瓜」など。
◎胸はりてポニーに乗る子秋高し 万亀子
【評】のびやかで気持ちのよい句です。上五「胸はつて」でもいいかもしれません。
△~〇秋晴やロゴ華々と競走車 徒歩
【評】わたしも名古屋駅前でその展示を見ました。ウィキペディアによると、競走車とはオートレースに用いられる二輪車のことだそうです。レーシングカーはレーシングカーと呼ぶほかなさそうですね。「ロゴ光るレーシングカー秋高し」では平凡でしょうか。
〇秋の雨F1カーの席狭く 徒歩
【評】なるほど、F1カーという言い方もできますね。「席狭く」は終止形か名詞止のほうがすっきりする気がします。「秋霖やF1カーの一人席」など。
〇秋空に映え深志城人の波 久美
【評】深志城は国宝・松本城の別名ですね。「映え」が説明的です。切れを入れ、お城らしくどっしり作るとよいと思います。例えば「秋天や深志城下に人の波」など。
△立昇る刈取済むや田の煙 久美
【評】「立昇る」と「田の煙」は切り離してはいけません。あと、煙がどのように立昇ったのか具体描写できると俳句らしくなります。「刈取りし田に二筋のうす煙」など。
△~〇銀杏の香を連れて来し夫の靴 多喜
【評】「連れて来し」という擬人法が今一つですね。もっと素直に詠めばよいと思います。たとえば「銀杏のにほひを靴に夫帰る」。「匂ひ」なのか、それとも「臭い」か迷うところですので、あえて平仮名にしました。
△~〇手を止めてラジオ体操スポーツの日 多喜
【評】「スポーツの日」という新季語に挑戦したことを高く評価したいと思います。しかし下五が字余りで、調べの悪い句になってしまいました。定型に収めづらい季語ですが、とりあえず一案として「スポーツの日や首回し膝抱へ」。
◎穴窯を焚く陶工や秋桜 ゆき
【評】句形もよく、生活感の伝わる即物具象句です。季語が華やぎを添えていますね。
△熟柿食む鳥の姿は見へぬとも ゆき
【評】「見へぬ」は間違いです。終止形は「見ふ」でなく「見ゆ」ですから、「見えぬとも」となります。ただ、句意がとれませんでした。一応「食む鳥のなきまま柿の熟れゐたり」としてみました。
△~〇落ち鮎や洪水跡の壁見上ぐ 糸子
【評】送り仮名は省き「落鮎」とするのが一般的です。季語から推測すると、河川の下流域の情景だと思いますが、とすると「壁」がよくわかりません。川に壁があるのでしょうか。ひとまず「落鮎や洪水跡の土砂積もり」としておきます。
△~〇山腹の駅の眼下に秋の川 糸子
【評】意味は通じますが、表現が平板で、「山腹」「駅」「秋の川」のどこに焦点を当てていいのかわかりません。また、「山腹の駅」も秋の只中にあるわけですから、秋を「川」だけに限定した仕立て方もあまりよくありません。原句とは全く異なり恐縮ですが、「登高や大河は銀の帯となり」という句が思い浮かびました。
◎ぬくめ酒あら煮の目玉啜りつつ 智代
【評】なかなか渋い句で、八代亜紀の歌が聞こえてきそうです。こんな生活感のある句もいいものですね。句の形も申し分ありません。
◎野分立つ窓にあてがふ段ボール 智代
【評】この句も生活感がよく出ていて結構です。俳句はこのようにリアリティーを感じさせることが大切ですね。
〇秋初月縁に腰掛けハ一ブテイ一 千代
【評】「秋初月」(あきはづき)は陰暦七月の異称です。現代の八月のことですね。ここは本物の月をもってきたほうが感じが出るのではないでしょうか。たとえば「星月夜縁に腰掛けハーブティー」など。
△~〇店先の松茸そっと香りかぐ 千代
【評】状況はよくわかりますが、詩情が今一つでしょうか。「そっと」は「そつと」と表記しましょう。語順をすこし整え「店頭の松茸の香をそつと嗅ぐ」としてみました。
△大衆魚さんま高値に目を見張る 織美
【評】これはただの愚痴ないしは嘆息です。このような思いを抱きつつも、われわれは俳句という芸術の一分野のなかで詩性を追求しているわけですから、もっと志の高い作品を目指しましょう。
〇三年目栗の若木に毬の付く 織美
【評】昔から「桃栗三年柿八年」と言いますので、そのことわざのままですが、素直な詠みぶりを良しとしたいと思います。
次回は11月1日(火)の掲載となります。前日(10月31日)の午後6時までにご投句頂けると幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。