安倍元首相銃撃事件を機に旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の高額献金や政治家との関わりが問題になると共に、これまであまり知られることのなかった宗教2世について報じられる様になりました。宗教2世と聞いて思い出すのが今村夏子の「星の子」。2020年に芦田愛菜主演で映画化もされた様です。2世問題については西垣さんのコラムを読んで頂くとして、「星の子」をレビューすることにします。
小説は中学3年生のちひろによって語られます。導入は「小さいころ、わたしは体が弱かったそうだ」。病弱な娘を案じる両親。損害保険会社に勤める父が同僚から「それは水が悪いのです。この水で毎朝毎晩お嬢さんの体を清めておあげなさい」と薦められた水を使ってみたことから、あやしい宗教にのめり込んでいく、ありそうな話です。親戚のおじさんが両親の宗教をやめさせようと水を水道水に入れ替えるのも、実際にありそう。けれども、やがて家族のかたちは歪み始め、姉は家を出て行方知れずに。読んでいて思ったのは、親が宗教にのめりこみ始める時に子供が何歳かというのは、結構重要なんだろうなということ。ある程度の年齢に成長してると姉のよう自分の意志で家を離れる人もあるだろうけど、ちひろは自分のせいで親が入信したうしろめたさもあるんだろうけど、親に疑問を持ちつつも今は受け入れている様子。生まれた時に既に親が信者だと、その価値観を色濃く受けて育ち、そのまま信者二世となることも多いのではないか、それで社会に出た時に馴染めなかったり、混乱するのではないかと思ったのでした。余談ですが大正末期から昭和ひとケタ生まれは、戦時中に育った年齢で軍国教育の影響の受け方が異なる様です。
巻末の小川洋子との対談で、今村夏子は「この小説では『この家族は壊れてなんかないんだ』ということを書きたかった」と語っています。確かに教団の合宿があったり子供同士の交流があったり、信者のコミュニティがあるのは、善良なクリスチャンなんかと変わらない気もします。信者でない人の価値観とぶつからなければ、彼らには仲間もいて、幸せそうに見えます。でも今村さんは銃撃事件があった今もそう思っているのでしょうか。確かに破綻してない家族もあるだろうけど、山上容疑者の様に破綻した家族もいるし、コミュニティの外に出たくなった時の価値観の崩壊は凄まじいものがありそうです。考えてみればお寺の息子や牧師の娘などは宗教2世とは言わないのに、新興宗教の信者の子だけが宗教2世と言われるんですよね。それぞれに教義も信仰行動も違うんでしょうけど、高額な献金で家庭が困窮し、家族が歪んでいくのは共通している様に見えます。その中で折り合いをつけようとする子の視点を追体験するのに、平易な文章で書かれたこの小説は良いのではないかと思ったりしています。(モモ母)