林あまり。歌人でエッセイスト、作詞家という多才ぶり。坂本冬美の「夜桜お七」の作詞をされたといえば「あぁ!」という方も多いのでは。ただ私、失礼ながらご本人のことはあまりよく存じ上げないのです。歌集を買ったのもこの本が初めてで、その後もありません。なにかで知ってこの本を買い求めたのでしょうけれど、そのなにか、も記憶にありません。私の本棚に20年近く並んでいます。短歌が好きとか興味関心があったわけでもなく知識もなく。俵万智さんの爆発的にブームとなった「サラダ記念日」の代表作が記憶にあるぐらいの人間です。当時、社会的に衝撃的だったと記憶しますが、私はあまり関心が持てずスルーしていた世界でした。でも数年前に取り組んだ大々的な自分の本の断捨離の時も手放さなかったのですから、大切にしたい一冊であることは確かです。
歌集の本の帯には
「あなたの上にわたしのからだを乗せたまま すこし眠るということの蜜」
という作品が紹介されていて、いきなりドキドキさせられます。艶めいて美しくてエロチックな世界。こんな情景をうたってしまえる林あまりってどんな感性の人なんだろう。そういえば夜桜お七ってどんな歌だっけと調べたら、「・・・抱いて抱かれた、二十歳の夢のあと・・・」って。えぇ、二十歳でもう夢のあとなんかぃ、と突っ込んでしまいました。書籍内の作品をあまり紹介できませんが、私が心をやられたのは、
「結局はいい匂いのする男のもとへ あきらめたように降る雪の朝」
いい匂いとはそのままの意味なのか、その想い人にひき寄せられてしまう自分の心情を匂いに託しているのか。いやもっと深い意味合いが込められているのか。単に匂いフェチなわたしとしてはシンプルにロックオンされたワードでした。あきらめたように降るって、本当に切ない情景ですね。雪が降るだけでしんみりとするのに、加えて、あきらめたように、といわれると何を捨てて、なにを選んだのかと考えてしまうのです。まったく違う意図かもしれませんが…。短歌を語れる資格ゼロなので、あれこれ読み解くなんてできませんが、恋する(愛する)女性にお奨めしたい1冊です。
そもそもですが短歌とはなにか、そこからして不勉強です。俳句は五・七・五の十七文字、短歌は五・七・五・七・七の合計三十一文字からなる世界。日本文化を代表する定型詩であるとも書かれていました。すごいのですね。俳句に季語はお約束だけれど、短歌は気にしなくていい、らしい。子どもレベルの知識ですが、短歌のほうが自由度は高そうです。いや、そうじゃないと、林あまりさんのような作品はつくれませんね。
本の背表紙が色焼けした時間経過に、もう少し、作品にならって自分自身の人生も艶めかなかったものかと残念に思うきょう、だから歌集記念日。(ふるさとかえる)