昨今、中国とロシアの関係はますます緊密化しているように見えます。昨年10月には日本海で合同軍事演習を行ったばかりか、両軍の艦艇10隻が津軽海峡や大隅海峡を通過し、日本をほぼ一周するデモンストレーションまで行いました。今年に入り北朝鮮が立て続けにミサイル実験を行うと、米国は国連安保理で北朝鮮への追加制裁を提案しましたが、中露はこれに同調せず、制裁案は棚上げとなりました。その他、両国の共同歩調は様々な面で看取されます。中露はもはや同盟関係にあると言っていいのでしょうか?
昨年12月、米国のバイデン大統領が「民主主義サミット」を開催し、中露を「専制主義国家」と位置づけて以来、両国はイデオロギー面でも関係強化を加速させているようです。習近平国家主席とプーチン大統領は12月15日にオンライン会談を行い、欧米への対抗姿勢を明らかにしました。プーチン氏は北京五輪の開会式への出席を改めて確認し、対面での首脳会談を楽しみにしていると述べ、習氏もこれも歓迎しました。
とはいえ、これをもって中露が一枚岩的団結を誇り、同盟関係にあるとは言えないと考えます。
なぜですか?
たとえばウクライナ問題をとっても、中国はロシアを全面的に支持しているわけではありません。中国は現在まで、ロシアによるクリミア半島併合を承認していません。ロシアへの制裁には反対するものの、この問題に関しては中立を保っているのです。そもそもウクライナは中国が呼びかける「一帯一路」への参加に最も早く応じた国の一つですし、両国の貿易額も増大しています。
最近、ロシア軍のウクライナ侵攻の可能性が取り沙汰されていますが、それを最も恐れているのは中国かもしれません。そんなことになれば北京五輪は台無しですし、オリンピック後に起これば、プーチン大統領と緊密な関係を誇示する習近平氏も責任を追及されることになるでしょう。中国も加担国として欧米に非難され、欧州への拡大を目指す「一帯一路」は一大頓挫をきたすでしょう。他方、ロシアにしても中国に全幅の信頼を置いているわけではないように感じます。
それはどういうことでしょうか?
プーチン氏は2011年10月3日、ロシア紙『イズヴェスチヤ』に「ユーラシア連合」に関する長大な論文を発表しました。ロシアが中心となり、アジア太平洋地域とヨーロッパを結びつけた壮大な経済圏をつくる構想を明らかにしたのです。ところがその数年後、習近平政権が「一帯一路」を打ち出し、プーチン氏の「ユーラシア連合」を呑み込んでしまいました。そしてロシアが自らの勢力圏と見なす旧ソ連中央アジア諸国を「一帯一路」に組み入れてしまったのです。結局、ロシア自体も「一帯一路」に加盟せざるを得ず、新経済圏創設のイニシアチブを中国に握られてしまったわけです。プーチン氏には不本意なことだったでしょう。この点に関して詳しくは、共著『一帯一路 多元的視点から読み解く中国の共栄構想』(晃洋書房、2021年12月刊)所収の拙論「第7章 『一帯一路』と日露の戦略」をご参照ください。
最近、カザフスタンで騒乱がありましたが、同国も「一帯一路」にとって枢要な国で、中国との結びつきが強かったのですが、事態沈静化のためロシア軍が介入したことにより、ロシアの影響力が増しました。プーチン大統領はカザフスタンを中国からロシアへ一気に引き寄せることに成功したとみることもできるでしょう。
ほかにはどのような事例が挙げられますか?
ロシアは北極圏全体の約3割を自国領と見なし、軍事的プレゼンスを誇示するとともに、北極海航路の開拓にも力を入れ、他国にも航行の利用を呼びかけています。ただし管理権はロシアが一手に握ることにしています。この北極海航路に中国が注目し、「氷上のシルクロード」として活用する意欲を示しています。オホーツク海や北極海を中国の艦船が航行したとのニュースもあります。ロシアとしては、自国の勢力圏と考える北極圏が「一帯一路」と同様、中国の影響下に置かれることは是非避けたいところでしょう。
なるほど、中露は必ずしも一枚岩的に団結しているのではないのですね。
はい。中国とロシアにはそれぞれの国益があり、それがいつも一致するわけではありません。中国はベトナムと対立していますが、ロシアはそのベトナムと「戦略的パートナーシップ」を発展させることで合意しています。このように個々の例を挙げれば、中国とロシアの齟齬はいろいろ見出せます。
そもそも国境を接する国同士で、仲が良いというケースはあまりありません。隣り合う国は潜在的に互いへの警戒心を抱くものです。現に冷戦時代、両国は「中ソ対立」と呼ばれる反目を続けてきました。歴史的にみれば、今日のような友好関係のほうがむしろ例外的ともいえるでしょう。
世界を「民主主義」と「専制主義」に二分し、中国とロシアを「専制主義」で一括りすることは、両国関係の緊密化を促すだけで、それでは世界はますます硬直した軍事対決の場になってしまいます。われわれは中露関係における国益の相違や不一致点を見逃さず、より柔軟な外交によってそれぞれと交渉の活路を見出す努力をすることが肝要でしょう。世界を敵と味方に二分する発想からは何も創造的なものは生まれないと思います。
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