今年の立冬は11月7日。曆の上ではもう冬ですが、紅葉の見頃はこれからですし、この暖かさ。冬の季語で作るべきか、まだ秋の季語でも大丈夫なのか迷うところですが、実感に即して作句してくださればけっこうだと思います。それにしても歳時記と実際の気候の乖離は年々大きくなるような気がします。
△放置田を楽園にして虫しぐれ 恵子
【評】「楽園にして」は作者の解釈。作者は自句のなかで解釈をしてはいけません(それは読み手の領分です)。なぜ「楽園」だと感じたのか、その元のところを写生してください。一案として「放置田に音色いろいろ虫の秋」など。
○渡船場にたゆたふ二艘素秋かな 恵子
【評】切れ字「かな」を使う場合は、途中に切れを入れないのが原則です(この句は中七で切れが入っています)。「素秋なる」くらいが無難かと思います。
△古靴に銀杏落葉染まりけり 美春
【評】「銀杏落葉」は「いちょうおちば」と読みますので中七が字足らずですね。「古靴を染めたる銀杏落葉かな」としてみました。
○熟し柿鳥来る庭に残しをく 美春
【評】おおむね結構です。俳句は多くの場合、季語を最後に置くと安定感が増します。「鳥の来る庭に残せり熟し柿」とするのも一法ですね。
○血圧計エラーと表示そぞろ寒 妙好
【評】おもしろい句材ですね。「表示」がすこし説明的ですので、「そぞろ寒血圧計はまたエラー」としてみました。
○星冴ゆる妻の肩抱く欣一忌 妙好
【評】思いのこもった句ですね。三段切れのように読めますので、上五を変え、「冴ゆる夜の妻の肩抱く欣一忌」とするのも一法でしょうか。
○~◎触診の後の採血すずろ寒 音羽
【評】ちょっと寂しい句ですが、しっかりと出来ています。侘しい感じを表面に出さないとすれば、「触診の後の採血冬に入る」などとする手もありますね。
○~◎起き抜けの目眩に歪む白障子 音羽
【評】正直なところ、鑑賞の前に音羽さんのご体調のほうが心配になってしまいますが、作品としては何か迫ってくるものがありますね。
◎無口なる足助の猟師冬に入る マユミ
【評】まず「無口なる」が大変けっこうです。この猟師の精神性まで感じられます。これが「饒舌な」では台無しですね。そして「足助」という地名がこの句にリアリティーを与えています。
△~○勇ましきガールスカウト花野ゆく マユミ
【評】どんなところに勇ましさを感じたのでしょうか。そこを目に見えるように写生するとより俳句らしくなります。「膝高くガールスカウト花野ゆく」など。
○剣士らの辞儀の清しき文化の日 ひろ
【評】だいたい結構ですが、一句に切れがほしいところです。「剣士らの清しき辞儀や文化の日」。本当は「清しき」も具体的に描写してほしいのですが、今のところ私にもいい案が浮びません。「剣士らの一礼深し文化の日」なんてのもありでしょうか。
○みせばやを咲かせて小さき仏具店 ひろ
【評】この句もだいたい結構ですが、みせばやの咲き方など、もう一歩写生を深めるとさらによくなりそうです。「みせばやを花瓶に小さき仏具店」など。
○渋皮の桜色して落花生 織美
【評】きれいな渋皮ですね。「~して」というところが一句の印象としてやや弱い感じを受けます。「薄皮は桜いろなり落花生」「渋皮は薄くれなゐよ落花生」などもう一工夫できそうな気がします。
△~○連れ立ちて野菊供ふる友の墓 織美
【評】いきなり「連れ立ちて」と書かれると、だれと連れ立ったのか読み手はとまどいます。下五まで読むと、昔の仲良しグループ(同級生たち)とお墓参りしたことは想像がつきますが・・・。「女子五人連れ立ち友の墓参り」「親友の墓へ野菊を摘みながら」など、もうすこし推敲してください。
△~○冬支度ネイルの色を変へるのも あみか
【評】なんだか理屈っぽい気がします。もうすこし素直に詠んだほうがいいのでは?「冬近しネイルのいろを紅に」など。
△残る虫卓にジャポニカ学習帳 あみか
【評】「残る虫」は侘しい感じがしますが、「ジャポニカ学習帳」は元気な学童を連想させます。この取合せはミスマッチではないでしょうか。うまく添削できませんが、とりあえず「虫籠の下にジャポニカ学習帳」としておきます。
△新米をガフガフ食らいお代はりす 白き花
【評】「ガフガフ」を面白いとみるかどうかですね。できるだけカタカナは避けたほうがよいでしょう。また、「食らい(ひ)お代はりす」と動詞を2つ続けるのもよくありません。「新米をがふがふ食らひ三杯目」としておきます。
△~○石蕗に集う虫等も前のめり 白き花
【評】「集う」は「集ふ」。「前のめり」がユーモラスですね。角川の歳時記によりますと、「石蕗(つはぶき)」だけでは花のことにならないので、「石蕗(つはぶき)の花」(あるいは「石蕗(つは)の花」)と書かないといけないようです。「つはぶきの花に虫たち前のめり」でどうでしょう。
○どんぐりの大きさ競ふ子供たち 徒歩
【評】特に難点はないのですが、今一つパンチ力に欠けます。「団栗の独楽の大きさ子と競ふ」など、もう一つ何かほしいところです。
○車窓から横目に東寺秋の暮 徒歩
【評】「横目に」が必要なのかどうか、悩みどころです。「晩秋の東寺見送る車窓より」くらいでどうでしょう。
○迫り来る装ふ山や中央線 万亀子
【評】「迫り来る」と「装ふ」という2つの動詞が続くのが気になります(調べが悪くなるので)。語順を変えて「装へる山迫り来る中央線」でいかがでしょう。
△~○小さく羽震はせ地這ふ冬の蝶 万亀子
【評】ややごちゃごちゃしているので、「小さく」を省きましょう。「冬の蝶羽ふるはせて地を這へり」としてみました。
○~◎手揉みする軒の吊り柿光り合ふ 智代
【評】「手揉みする」を過去形にしたほうが句意がとりやすくなると思います。「手揉みせし軒の吊り柿光り合ふ」。
○焼味噌の香に誘はるる冬の蝿 智代
【評】「誘はるる」は言わないほうが俳句らしくなります。「焼味噌の香へ真つ直ぐに冬の蝿」など、もう一歩写生を深めたいところです。
△~○星月夜膝の関節摩りゐる 永河
【評】せっかく美しい夜空を見ているのに、意識が膝の関節に向いているのはもったいない気がします。膝の関節に焦点を当てるならば、たとえば「月の雨膝の関節摩りゐる」としたほうがしっくりくるかもしれません。
△~○湯たんぽに掌を添へ母はテレビかな 永河
【評】今一つ状況がわからないのですが(湯たんぽは足を温めるものという固定観念が邪魔するせいかもしれませんが)、「テレビかな」では収まりが悪いので、「湯たんぽに掌を添へ母はテレビ観る」とするか、「テレビ観る母の片手は湯たんぽに」など、もう少し推敲できそうに思います。
○秋天の青も重ぬや海地獄 多喜
【評】「秋天」と「海地獄」の取合せがユニークです。「重ぬや」が語感的に今一つですので、「秋天の青重ねたり海地獄」でどうでしょう。ただ、「秋天」といえば大概晴れた空を指しますので、「青」はなくても大丈夫です。「秋天のいろを映せり海地獄」。また、「秋の空よりも明るし海地獄」とすれば、海地獄独特の青色がイメージできそうです。
○秋晴るる黒岳男池(おいけ)ひすい色 多喜
【評】この句の形ですと、黒岳と男池の両方ともひすい色ということになりますが、いかがでしょう。秋ならば黒岳は紅葉になりそうな気もするのですが・・・。句としてはしっかりできています。
○無患子のまだ青き実や芝居見に 利佳子
【評】芝居を見に行く途中で見かけたのですね。「無患子の青き実見上げ芝居観に」としたほうがわかりやすいかもしれません。
○猪垣に囲まれ山の小学校 利佳子
【評】猪が学校に入ってこないように、ぐるりと校舎を垣で囲っているのでしょうか。それならば「猪垣で囲へり山の小学校」のほうがよさそうですね。
△~○懐かしき人と会ひたる文化の日 久美
【評】「懐かしき人」が誰か読者にもわかるように作ると、さらに共感してもらえる句になります。「初恋の人に会ひたり文化の日」「文化の日幼馴染みと会ひにけり」など。
△秋の日に心晴れるや総選挙 久美
【評】「心晴れる」は目で見えない内面のことです。俳句は絵画と同じ。心のなかを目で見えるように描写しましょう。「秋の日や足取り軽く投票へ」など。
◎母の忌や風に舞ひたる零れ萩 千代子
【評】客観的に写生がなされた良い句です。俳句はこのように作りたいものです。
△~○大粒の銀杏もらひ孫と煎る 千代子
【評】ああして、こうしたと説明的な句になっています。「もらひ」は省き、「大粒の銀杏孫と煎りにけり」だけで十分です。
△陽が登る欅落葉の庭を埋め 慶喜
【評】「陽が登る(「昇る」ですね)」ですと、目は空を向いています。とすると、庭の落葉は視界外のはず。そのへんの整合性を考えると「庭埋めし欅落葉に朝日差す」でしょうか。
◎湯豆腐の湯気いつぱいに一人膳 慶喜
【評】美味しそうですね。これなら一人膳でもわびしさはありません。むしろ幸福感が伝わってきました。
次回は11月30日(火)の掲載となります。前日午後6時までにご投句いただけると幸いです。なお、句を受取りましたら、その旨返信をしています。もし返信が無い場合、何らかのトラブルで私に届いていない可能性がありますので、ご再送ください。河原地英武
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