このところ北朝鮮が立て続けにミサイルを打ち上げています。それも技術をどんどん高め、相手の迎撃網をすりぬけるような複雑な軌道で飛ぶもので、種類も多様化させている模様です。9月11日と12日には新型長距離巡航ミサイル、15日には変則軌道の弾道ミサイル2発、28日には新型の極超音速ミサイル「火星8」型、30日には新たに開発した対空ミサイル、10月19日には新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)2発といった具合です。北朝鮮側の意図は何なのでしょうか?
9月27日の国連総会で北朝鮮の金星国連大使が演説し、米韓による軍事脅威が増大していることを指摘したうえで、「米国と同等の兵器システムを開発、実験、製造、保有する北朝鮮の自衛権は誰にも否定できない」と述べました(『読売新聞』2021年9月28日夕刊)。また、金正恩総書記が10月11日に演説を行い、「われわれの主敵は戦争そのものであり、韓国や米国など特定の国家や勢力ではない」と意味深長な発言をするとともに、軍事力強化は自衛のための権利だとも主張したと伝えられています(『朝日新聞』2021年10月13日)。これらの言説からわかるのは、北朝鮮が核実験やミサイル開発を制裁解除と交換に取り止めるといった取引の具にするつもりは毛頭無く、世界最高水準の性能を備えた核ミサイルの保有国になろうとしていることです。
では、北朝鮮を「核保有国」として承認せざるを得ないということですか?
これからも「朝鮮半島の非核化」を目標として掲げることは大切です。しかし北朝鮮に核兵器や弾道ミサイルの廃棄を求めて圧力を加えるといった政策が奏功する可能性は極めて低いと思います。事実上の「核保有国」となった北朝鮮に対しては、これらの戦力を実際に行使させないような「抑止」策を講じるほかありません。
日本側にそのような「抑止」の力はあるのですか?
少なくとも現在の北朝鮮がわが国の動向を注視していることはたしかです。北朝鮮外務省は9月23日のホームページに、研究員の個人名義の文章を載せ、「終始一貫して最も卑劣で野蛮な対朝鮮制裁による封鎖の策動にしがみついてきた菅と安倍」を糾弾しつつ自民党総裁選のゆくえに並々ならぬ関心を見せました(『聯合ニュース』2021年9月24日配信)。また10月7日には、岸田首相が拉致問題解決への意欲を示したことに対し、この「問題は2002年と04年に当時の首相が平壌を訪れたことを機に、われわれの誠意と努力によって既に完全に解決された」との反論記事を掲載しました(『朝日新聞デジタル』2021年10月8日)。さらに10月16日付北朝鮮紙『統一新報』は、岸田首相が旧日本軍の従軍慰安婦問題をめぐる2015年の日韓政府間合意をつくった「極右人物」だとする記事を掲げました(『西日本新聞』2021年10月17日)。
これらはいずれも日本政府への痛烈な批判ですが、北朝鮮指導部が岸田新政権の今後の出方について相当警戒し、注意を怠っていないことを示しています。つまり、それだけ日本を重く見ているともいえるでしょう。北朝鮮が日本に何を期待しているのかを見極めつつ、われわれとしていかなる政策を打ち出すべきか、とても大事な時期にさしかかっているように感じます。
もうじき衆議院選挙ですが、北朝鮮はその結果にも注目しているのでしょうね。与野党は北朝鮮問題に関し、どのような公約をしているのでしょう?
各党の公式ホームページを見れば、選挙公約が書かれています。ぜひそれを読み比べてください。自民党の場合ですと、北朝鮮問題については以下のように記されています。
拉致問題に対しては「あらゆる手段を尽くし全ての拉致被害者の即時一括帰国を求めます」と述べられていますが、安倍政権以来、ずっと同じことを言いながら何も出来なかったことを考えると、果たして信じてよいのか。また、「核・ミサイルの完全な放棄を迫ります」というスタンスが成り立ちがたくなっていることは先に述べたとおりです。
ところで岸田首相が「敵基地攻撃」の保有について意欲的である点が気になります。岸田氏は10月15日、『読売新聞』のインタビューに応じ、敵のミサイル発射基地などを自衛目的で破壊する「敵基地攻撃能力」の保有について、近々改定を予定している「国家安全保障戦略」に明記する意欲を示した由です(『読売新聞』2021年10月16日)。北朝鮮が迎撃困難な新型ミサイルを開発したことから、昨年、安倍首相(当時)が提起した案ですが、その具体化が北朝鮮のいかなる反応を引き起こすのか、ひいては日朝関係にどのような影響をおよぼすのか、国民として無関心ではいられません。結局、政府与党としては、北朝鮮とは力による対決の姿勢を強めることが予測されます。
他方、第一野党である立憲民主党は、「外交・安全保障」について、次のような公約を掲げています。
北朝鮮に関しては、「拉致問題について、最後の一人の救出まで、解決に全力で取り組みます」と述べていますが、先日の生方幸夫氏の発言をみると、その本気度を疑われてもしかたないでしょう。
韓国の文在寅大統領は9月21日、国連総会で演説を行い、南北と米国の3カ国、あるいは中国を加えた4カ国で朝鮮戦争の終戦を宣言することを提案し、米国、中国の同意を得たと伝えられています。また北朝鮮も表向きは反発しつつ、提案自体は否定していないようです。どうやら朝鮮半島をめぐる国際情勢は、対立からから平和交渉へと潮目が変わりつつあるように思われます。日本だけが「蚊帳の外」であってはなりません。
日本も行く行くは北朝鮮との国交樹立まで見据えた戦略を立てる必要があるでしょう。選挙公約はどうしても眼前の情勢や問題意識にとらわれがちですが、大局的な観点からの対北朝鮮政策を構想しておくことが必須だと考えます。
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