山形県に入った。海沿いを歩く。その日は、雨と強風の中を歩くことになった。合羽の上から荷物ごとポンチョを被り、濡れるのを防いだ。日本海の荒波は泡となり、千切れて飛ばされて行った。トンネルに差し掛かると物凄い勢いいで風が抜けてきた。まるで風洞実験室の様だ。短いトンネルで出口は見えているが、全く前に進めない。地形的に漏斗の様になっていたのだと思う。初めて立ち往生した。風影でポンチョを脱ぎ、風の抵抗を少なくして少し風が弱まった隙にトンネルを通りぬけた。その後も雨と強風は続き、小さな水族館の入り口で雨宿りをしていた。すると受付の女性が、中に入りなさいと声を掛けてくれた。見学するつもりではない旨伝えたが、入るように勧められ事務室に案内された。事務所には、男性が一人だけ。その人が館長さんだった。事務所脇の応接室で出してもらったお茶を飲んでいると館長さんが気さくに話しかけて来てくれた。旅のことを訊かれたり、この小さな水族館のことや水族館で働き館長になった経緯などを話してくれた。本州北限の大きな庄内柿を4つも御馳走になった。楽しいひと時を過ごした後、館内を見学させてもらった。しかし、これと言って見るものも無く、屋外のプールは、飼育されているアザラシが逃げてしまうのではないかと思う程で、強風に煽られた波しぶきが吹き込んでいた。来館者は、無料の私だけの様だった。いつか時間が出来たらお礼がてら寄りたいなと思っているうち、ずいぶん年月が経ってしまったが、ある時テレビでクラゲ水族館として大きく報道されているではないか。驚いた。そしてとても嬉しくなった。雨は、いつの間にか止み、出発する時には、この先にあるユースホステルに宿泊の手配までして下さった。
京滋有機農業研究会 会長の田中真弥さんが無減農薬野菜などの宅配サービスの会員向けに連載しているコラム「こころ野便り」を当サイトにも掲載させて頂いています。前回はこちら。