広大な八郎潟の干拓田の横を歩く。真っ平らな干拓田の遥か向こうに男鹿半島が見える。広大な田園風景だが、北海道のそれとは違う。向うに海が有るからかな。大規模な稲作、減反、農政。「国の政策に右往左往したくないな」農業について何も知らない若造であるが、そんな事を思った。国道沿いの民家に差し掛かった時おばさんが、声を掛けてきた。「何で歩いてるのさ、歩いてたって何も面白くないでしょ」と言う。面白くないこともないと思っているけれど答えに困っていると 「そこに山が有るからって登る人も居るしね」と自ら助け船を出してくれた。「あんたみたいな人を見ているとりんごでも梨でもあげたくなるよ」と言っていた。結局何もくれなかったが、この時の会話は、未だに時々思い出す。そしてちょっと質問を変えてみる。「何で農業してんの、有機農業なんて面白くないでしょう」そして躊躇なく答える。「最高に面白いよ!」と。もし、今あのおばさんが、畑で汗まみれで働いている私の姿を見たらリンゴとナシを持って来てくれそうだ。「あんた、歳取らないね」と 息子にりんごと梨を渡すかもしれない。
京滋有機農業研究会 会長の田中真弥さんが無減農薬野菜などの宅配サービスの会員向けに連載しているコラム「こころ野便り」を当サイトにも掲載させて頂いています。前回はこちら。