8月26日、アフガニスタンの首都カブールの空港付近で自爆テロが起きました。当初は2人のテロリストが2か所で相次いで自爆したと報じられましたが、その後、米軍当局が訂正し、自爆した容疑者は1人だけで、爆発も1か所だったと明らかにしました。このテロで米兵13名を含む約180名以上が死亡し、負傷者はそれをはるかに上回る模様です。
テロの首謀者は過激派組織「イスラム国」(IS)系の「ISホラサン州」と呼ばれるグループで、犯行声明も出したとか。このテロに対してはタリバンの報道官が強く非難しました。翌27日と29日、米軍はアフガニスタン東部で無人機による報復攻撃を行った由です。
この自爆テロにはわからない点がいくつもあります。そもそもIS系テロリストとは何者で、なぜアフガニスタンで活動しているのか。彼らとタリバンとの関係はどうなっているのか。また、彼らは反米主義だが、それならばテロなど起こさず、すんなりと米軍を撤収させたほうが得策なのではないか。それなのになぜ、このタイミングで自爆テロを起こす必要があったのか。これらの疑問についてどう考えますか?
まず自爆テロ実行犯の「ISホラサン州」(IS-K)については、次のBBSニュースの記事が参考になります。
私なりに要約・補足しますと、「ホラサン州」とはアフガニスタン、パキスタン、イラン東部にまたがる一帯の歴史的な地名です。英語表記では「Khorasan」。この地域を拠点とするイスラム主義過激派組織「イスラム国」(IS)の分派が「ISホラサン州」で、頭文字をとって「IS-K」と略称されます。IS自体は米軍を中心とする有志連合軍によって解体されましたが、その残党が各地に分散して活動を続けています。
IS-Kはアフガニスタン東部からパキスタンにまたがる地域を主な拠点とし、アメリカやイスラエルの撲滅をも唱える最も極端な過激派勢力で、その野心は既存の国境を越えた大イスラム圏の創出にあり、アフガニスタン一国の掌握だけで満足するタリバンを弱腰だと見なしています。つまりIS-Kからすれば、今アフガニスタンで実権を握っているタリバンですら穏健派ということになるわけです。ですから今回の自爆テロは、米軍への攻撃であると同時に、米国と折り合いをつけアフガニスタンを統治しようとしているタリバン主流派に対する「宣戦布告」だとみることもできるでしょう。現にこのテロで数十人のタリバンも死亡しています。
われわれにはタリバンこそが極端なイスラム主義者にみえるのですが、それを上回る強硬な勢力がタリバンに揺さぶりをかけているのですね。そうすると、アフガニスタンのほぼ全土を制圧したタリバンもそう簡単に政権を樹立できないということでしょうか?
はい。タリバン政権は非常に危うい状況下にあると思われます。何よりタリバンを結束させ得るカリスマ性をもった指導者の存在が見えてきません。これではタリバン自体がまとまらないでしょう。
テレビニュースではタリバンの広報責任者が、国民の生命・財産・自由などを保証し、女性の権利を尊重すると述べていますし、日本を含めた国際支援の必要性も訴えています。その言を信じるならば、アフガニスタンには20年前の恐怖政治とは異なる、もうすこし自由な社会が築かれる可能性も見えてくるのですが、肝心のタリバンに不確定要素が多すぎます。声明を発しているタリバンのリーダーたちは、国際世論を欺こうとしてわけでなく、本気である程度の民主化を導入しようとしているのかもしれません。しかしその路線に納得しない強硬派もおり、彼らは今も武力によって民衆を押さえつけ、対米協力者やその家族の「狩り出し」を継続しています。彼らタリバンの強硬派は、自爆テロを実行したIS-Kとつながっているといわれます。
タリバン内部で主導権争いが行われているということですか?
そう思われます。今回の自爆テロ事件も、その内部抗争の表れではないかとわたしは考えています。すなわち、対外的な宥和策をとるタリバン主流派の信用を失墜させ、すんなりと政権を渡すまいとする過激派の行動ではないかと推測します。
とすると、アフガニスタンの政情安定化は困難なのでしょうか?
次の自爆テロが準備されているとの報もあるようです。安定したタリバン政権の成立は容易なことではありません。アフガニスタンで国民選挙が行われ、民主的な政府がつくられる可能性は今のところありません。ガニ大統領が国外に逃亡し、従来の政府が崩壊した以上、主導権を握ったタリバンによる政権樹立しかオプションがないのが現実ですが、肝心のタリバン政権の「顔」となる人物が一向におもてに出てきません。だれが政権のトップに立つのか明らかにならないかぎり、政府と呼びうるものはできません。むろん最高指導者はいるのですが、表舞台に出てくることがないのです。
国際社会が現在求めるべきことは、タリバン内部の不透明性が払拭され、政権を構成する人物が明らかにされることです。でないと、交渉相手すら定まりません。ひとたび組閣され、政府ができた暁には、国内における民主的諸条件を受け入れることと引き換えに、国際的な承認と援助を行う、というプロセスを経ることが必須です。アフガニスタンにおける新政権がIS-Kのような過激な武装集団によってぐらつかないよう外国による援助を行う必要性も出てくるでしょう。
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