アフガニスタンからの米軍撤退が大変な混乱を招いています。首都カブールの空港から逃げるようにして飛び立つ米軍輸送機。それに飛び移ろうと追いすがるアフガンの群衆。その何名かは飛行機から落下して命を落しました。「アメリカの敗北」を強烈に印象付ける場面でした。
アメリカによるアフガニスタン政策は失敗だったと結論付けてよいでしょうか?
「ほかにどんな策があったのか?」という声が聞こえてきそうですが、たしかに失敗であったと結論付けるほかありません。2001年に米国は、同盟国とともにアフガニスタンに軍事侵攻し(9.11米同時多発テロへの報復です)、以来20年間、駐留を続けてきました。この20年に米国は一体何をしてきたのでしょう。
思い切り単純化していえば、アメリカの占領には日本に対するものと、ベトナムに対するものという2つのパターンが見て取れます。日本のケースは成功例です。1945年の敗戦から20年後の日本は、アメリカによる民主改革の功績が大だと思いますが、1964年の東京オリンピックを成功させ、経済的にも躍進を遂げつつありました。それに対し、アフガニスタンにおけるこの20年間を振り返れば、まさに泥沼のベトナム戦争を髣髴とさせます。つまるところアメリカは、アフガニスタンでの民生改革に十分取り組むことなく、戦闘の継続と軍事支援に明け暮れていたと言わざるを得ないでしょう。
しかしこの20年間に、アフガニスタンで民主化が進み、女性の社会的地位が向上したのは事実ではありませんか?
その点は評価しなくてはなりません。しかし米軍が撤退するや否や、アフガニスタンの「民主政権」はたちまち崩壊し、タリバンに屈してしまったのです。「民主化」がいかに脆弱で、表面的なものであったのか白日の下に晒されたわけです。軍事支援にしても、アメリカが本腰を入れて政府軍の育成に努めていれば、こうあっさりとタリバンの武装勢力に負けはしなかったでしょう。実は政府軍は相当腐敗しており、兵員数も水増しして申告し、米政府から多大な資金を得ていたといわれます。それを把握していなかったアメリカ側も杜撰ですが。要するに米国のアフガニスタン政策は場当たり的で、長期的なプランに基づくものではなかったと思われます。
長期的なプランがないまま20年間も米軍は駐留し続けたのですか?
あるアメリカの論者が興味深いことを言っていました。「米軍は20年間アフガニスタンで戦ったのではなく、1年の戦闘を20回繰り返したのだ」と。つまり長期戦略がないまま、ずるずると居座っただけという意味でしょう。
通訳者としてアメリカに協力したアフガンの人々が、タリバンによる報復を恐れ、続々とアメリカへの亡命や国外脱出をはかっていると報道されていますが、これもアメリカのアフガニスタン政策がいかに安直なものだったかを物語っています。つまりアメリカ側は、アフガニスタンの言語(公用語はパシュトゥー語とダリ―語)を解する人員をほとんど持たず、専ら現地の英語がわかる人々に頼っていたということです。軍の重要な情報も、直接収集するのでなく、現地の情報提供者と通訳者に任せていたことになります。かつてアメリカが日本の占領を見越し、大量に日本語要員を育成したこととは大違いです。
とはいえ米軍も、アフガニスタンのために1兆ドルを費やし、2400人以上の兵士の命を奪われました。これ以上駐留しても光明が見出せないと、バイデン政権は見切ったのです。
どうすればアフガニスタンに希望が見いだせるのでしょう?
究極的には外からの押し付けでなく、アフガニスタンの国民が自らの政府をもち、経済的に自立しなくてはなりません。ガニ大統領はアメリカのコロンビア大学で人類学の博士号を取得し、カブール大の学長も務めた大変なインテリで、知識人からの支持は高いそうですが、結局は人心を掌握できる器ではなったということでしょう。米軍の後ろ盾がなくなると、国民を捨て、いち早く国外に逃亡してしまいました。タリバンのような銃を手にした武装集団のトップではなく、真の政治家が現れないと、国家の形成は厳しいでしょう。
そして貧困対策です。アフガニスタンは農業国ですが、国家予算の5~8割を国外からの支援に頼っています。農民たちの多くが生活苦から、アヘンやヘロインの原料であるケシの栽培に従事しているそうです。それをタリバンが買い付け、資金源にしているという悪循環に陥っています。世界に出回っているアヘンの約8割がアフガニスタン由来ともいわれます。麻薬ビジネスはアフガニスタンのGDPの11%を占めるとの推計もあります。
故中村哲氏がアフガニスタンで行ってきた地道な事業の偉大さを改めて痛感します。アフガンの人々が求めているのも、このような支援でしょう。彼らの自立に役立つのは軍事ではなく、農業の技術支援なのだと思います。遠回りのようですが、国際社会が手助けすべきこともそれを措いてないと思います。
————————————