ニュースを見てびっくりしたのですが、5月14日と15日に九州の霧島演習場で陸上自衛隊、アメリカ海兵隊、フランス陸軍による共同軍事訓練が行われたのですね。
フランス軍が日本本土での軍事訓練に参加するのは初めてのこととか。さらには東シナ海でも、日本、アメリカ、フランス、オーストリアの4ヵ国による軍事訓練が行われた由ですが、何が目的なのでしょう?
一言でいえば中国に対する牽制です。中国軍の海洋進出をこれら諸国で断固阻止するという意思表示ですね。ついでながら、年内にはイギリスも空母「クイーン・エリザベス」などを含む軍艦を東アジアに派遣し、自衛隊と共同訓練を行うことになっています。また今年の夏以降、ドイツもフリゲート艦をインド太平洋地域に派遣し、自衛隊などとの共同訓練に参加することが検討されています。
もはや日米同盟だけでは中国軍を抑えられず、欧州の力を借りなくてはならないということですか?
むろん、そうした一面もあるのでしょうが、英仏独がインド太平洋地域への関与を強め、その存在感を示そうと積極的になっているという側面も見て取れます。
ともかく中国に対する国際的包囲網が着々と作られつつあるわけで、尖閣諸島をめぐり中国と緊張を高めている日本としては、より安全が増したと言っていいですか?
それが、そうとも言えないのです。フランス陸軍も参加した軍事訓練では、離島上陸や市街地での戦闘を想定していましたが、離島とは尖閣諸島のことでしょう。そして自衛隊が前面に出て市街地戦を行えるのは、そこが日本領である場合です。つまり今回の訓練は日本領土が戦場になることを仮定しているのです。従来と大きく前提が変わってきているとみるべきです。
それはどういうことでしょう?
今までは「朝鮮有事」や「台湾有事」が想定されていました。つまり朝鮮半島や台湾海峡で戦闘が勃発し、米軍が出動する。沖縄の米軍基地にはそのための戦闘機や艦船などが配備され、自衛隊は米軍の後方支援を行う、といった役割分担がありました。日本自体は戦闘の外側に置かれていたわけです。ところが今日の共同軍事訓練をみると、日本領そのものが主戦場となることを見越しているのです。
米国のバイデン大統領は、尖閣諸島が米軍の防衛範囲であることを菅首相に確約し、日本政府を安心させましたが、米軍がいよいよ尖閣を守らねばならなくなった事態を想像してみて下さい。そのときはすでに台湾が陥落し、中国軍に制圧されているでしょう。そう考えると、米国政府は台湾が中国の手中に落ちたその後のことまで作戦に織り込み済みということになるのです。米国の作戦において日本は守るべき領域ではなく、戦線そのものだといえるのです。
それは考え過ぎではありませんか?
現にアメリカは、在沖縄米軍部隊を着々と米国領のグアム島へ移転させています。
そしてオーストラリアの米軍基地をさらに拡充させているのです。
このことが意味しているのは何か。もはやアメリカにとって在沖縄米軍基地は安全な場所ではないということでしょう。攻撃のターゲットになる可能性があるということです。ですから、中国から地理的に離れた安全な場所へ在外米軍を移しているわけです。
たしかにオーストラリアなら中国の直接的な軍事脅威を感じずにすみますね。
はい。その点をオーストラリアも自覚し、対中国包囲網における自らの戦略的重要性をアピールしているように見受けられます。アジア方面へ軍を派遣するフランス、イギリス、ドイツなどはいずれもオーストラリアに寄港するコースをとっていますし、オーストラリアもそれを誘致しているふしがあるのです。
万一、中国との紛争が起こった暁には、前衛で戦うのは日本、はるか後方で支援や補給を行うのはオーストラリアという役割分担が欧米諸国の暗黙の了解になりつつあるのではないかとわたしは危ぶみます。日本が火中の栗を拾う役目を押し付けられたのではたまったものではありません。自衛隊が欧米諸国と共同軍事訓練を行うことを、日本が軍事的にも一流国として認められた証であるなどと勘違いしてはならないでしょう。
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