11月15日、日本、中国、韓国、ASEAN10ヶ国、オーストラリア、ニュージーランドの計15ヶ国がRCEP(アールセップ)に合意し、署名したと報じられましたが、このRCEPとは何ですか?
Regional Comprehensive Economic Partnershipの略語で、正式な邦訳名は「地域的な包括的経済連携」です。加盟国間で関税の大幅な削減と統一的ルールを定め、自由貿易を推進するための協定です。各国内での批准手続きなどがありますから、発効するのは来年以降になりますが、ともかく人口とGDP(国内総生産)で世界の約3割を占める巨大な自由貿易圏が誕生することになります。
RCEPで特に注目される点は何でしょう?
中国の加盟でしょう。ご存じのとおり、近年のアメリカは、中国の経済的・軍事的プレゼンスをどう抑えるかを主要な政策課題とし、日本もそれに同調してきました。オバマ政権が進めたTPPも中国を除外しての自由貿易圏構想でしたから、中国はこれに反発してきました。但し、トランプ政権になってアメリカ自体が離脱してしまいましたが…。トランプ政権は中国との対決姿勢を一段と強め、矢継ぎ早に対中関税引上げ策をとるなど米中の「貿易戦争」が過熱しました。また日米が主導する「自由で開かれたインド太平洋」構想も、実質的には対中封じ込め政策と言えるでしょう。その中国がRCEPに加盟したわけです。というより、その経済規模から言えば、中国を中心としてRCEPの合意がなされたとも見なせるわけです。
日本としては日米同盟の強化を謳いながら、他方でアメリカのいないRCEPで中国と自由貿易協定を結んだわけで、何かちぐはぐな印象を受けるのですがいかがですか?
RCEPに関しては、アメリカ追随ではない日本独自のイニシアチブが見て取れます。TPPでアメリカに翻弄された日本政府は、「RCEPがインパクトになり、米国がアジアにもっと目を向けるようになり、TPP復帰を真剣に検討してもらえれば」との期待があるようです。また、「RCEPの枠組みに日本が入っていけば、中から中国の行動を変えることができる」との思惑もあります(「朝日新聞」2020年11月16日「時時刻刻」欄)。さらに、RCEPが中国主導でルール作りを進めることがないように、日本はいわば「保険」として、中国と並ぶ大国インドの加盟を強く求めていました。しかし肝心のインドが今回RCEPへの不参加を決めたため、日本はあてが外れてしまいました。
ということは、RCEPは中国に仕切られてしまうことになりませんか?
実際には、RCEPの合意で中国側はかなり譲歩しました。アメリカから不公正な貿易国として非難されている中国は、RCEPに加盟することで、自ら自由貿易の推進役を務めていることを証立てたいとの意図もありますので、工業製品の8~9割に対する関税撤廃を受け入れましたし(但し10数年かけてという条件付きですが)、自国に進出した企業に原材料の現地調達や技術移転を求めることもしないという規定を受け入れました。とはいえ、電子商取引で、ソフトウエアの設計図である「ソースコード」の開示要求を禁止しておらず、機密情報が奪われる懸念があるなど、今回の協定にはまだいろいろと課題があり、中国側に求めるべき点も少なくありません。
近年の国際関係は米中対立を軸に、冷戦時代を彷彿とさせる厳しい様相を呈してきましたが、RCEPの合意はこの緊張を緩和する役割を果たすことができるのでしょうか?
自由貿易の促進が国家間の信頼醸成につながれば、軍事的緊張は低減するでしょう。11月20日、中国の習近平国家主席はTPPへの参加を「積極的に検討する」と表明しました。中国自体が、国際的孤立を望んでいない証拠でしょう。新型コロナウイルス禍で世界各国の経済が内向きになっていることも、貿易大国である中国の懸念材料となっています。結局中国も、他国との健全な貿易なしに自国経済は成り立ちません。その点で、アメリカにおけるバイデン政権の誕生は、中国にとってもチャンスでしょう。中国が国際的規範に従い、アメリカも中国に対する懲罰的手法を改めるならば、現在の険悪な国際関係の潮目が変わる可能性があります。RCEPがその一助になることを期待しています。
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