ようやく梅雨は明けましたが、今年はなにやら不完全燃焼の夏になりそうですね。このような中でいかに詩情を見出したらよいのか、これはこれで挑戦のし甲斐があることだと受け止めることにしましょう。
早速ですが皆さんの作品を見てゆきたいと思います。
△朝一番研ぎ汁あぐる夏草に 白き花
【評】「米の研ぎ汁」と正確に書きましょう。また、その夏草に愛着があるのでしょうから、固有名詞で呼んであげましょう。たとえば「朝まだき米の研ぎ汁向日葵に」など。
△ゴミ減量西瓜の皮も種も埋む 白き花
【評】日常感覚にとどまっていて、詩的高揚感が伝わりません。「ゴミ減量」をカットして作り直してみて下さい。上五が字余りですが、「土に還す西瓜の皮と種集め」など。
△黄昏に待宵草の風待ちぬ 豊喜
【評】この花が咲くのは夕暮れ時でしょうから、「黄昏に」は要りません。待宵草が風を待っているというのもムードに流された表現です。もっと即物的に写生しましょう。
△~○梅雨寒に豚バラ煮込み友を待つ 豊喜
【評】「梅雨寒に」の「に」が曖昧ですので、いっそ「梅雨寒や」と切ってしまいましょう。
△スタートの尻高く上ぐ夏の蝶 徒歩
【評】この「尻」は短距離走のランナーのものですね。視点がそこにあるわけですから、夏の蝶まで視野に入れると注意が散漫になるのでは?季語次第で面白い句になると思います。
△ゴールへの長き白線雲の峰 徒歩
【評】「長き白線」がどの白線か迷いました。各レーンを仕切る白線なのでしょうね。ただ、ランナーの視点から作った句とすると、隣の走者との仕切りの線など眼中にない気もするのですがどうでしょう。
△~○扇風機唸る寺領の甘味茶屋 音羽
【評】句としてはきちんとできていますが、格別感銘をもたらす情景ではないように思います。何か読み手の心をつかむワンポイントがほしいところです。
○本とぢし時風蘭のよく匂ふ 音羽
【評】感覚的でけっこうな句ですが、本を閉じるのは一瞬。その一瞬の出来事ですので、「よく匂ふ」という持続的な意味合いの言葉より、「匂ひけり」と完了の助動詞で収めた方がよさそうに感じました。
△伸びすぎの芝刈る夫や草刈機 織美
【評】「芝刈」は「草刈」の傍題で夏の季語。「草刈機」も夏の季語。どちらか一方にしましょう。また、普通芝を刈るのは「伸びすぎ」が理由ですから、意外性がありません。芝刈をしている「夫」の姿を描写するなど、個性的な表現を目指して下さい。
△白鷺の羽根の白さや青田波 織美
【評】白鷺の羽は純白ですね。ですから「白さ」は自明で感動のポイントにはなりません。さらに言うと「白鷺」は夏の季語ですので、「青田波」とともに使うと季重なりです。
△終戰や遠き歳月忘れえず 蓉子
【評】お気持ちは十分に伝わりますが、俳句は具象性の詩です。「忘れえず」は観念ですので、そういうことを言わずに、何か具体的な物で表現したいところですね。
△八月や父母を思いてきのうけふ 蓉子
【評】「八月」は時を示す言葉。「きのうけふ」も時を示す言葉。俳句では「時」同士の取り合わせはよくありません。父母を思ってどんなことをしたのか、そこを具体的に描写しましょう。なお「思いて」は歴史的仮名遣いでは「思ひて」となります。
○夏雲へ投ぐ少年のフリスビー 妙好
【評】気持ちよい句です。ちょっと語順を変えて「夏雲へ少年の投ぐフリスビー」としましょう。そうすれば「の」は主語を示す「の」となりますので。
○蟬時雨止みて無音の父祖の墓 妙好
【評】墓自体は無音にきまっていますので、「無音の」の「の」がへんです。「父祖の墓」の前で切れを入れ、「無音や」とすれば、句にも広がりがでます。
△剣道のフェイスシールド梅雨寒し えみ
【評】剣道では防具を着けますので、フェイスシールドがあまり効いていないように思います。たぶん試合ではなく、素振り練習のときにコロナ禍予防のフェイスシールドをつけていたのだと想像しますが。季語も剣道にしては元気がありませんね。俳句は気分を高揚させるために作るものですから、こんな時期ですし、もうすこし明るい句を目指しましょう。
○半島の小さき運河や海月満つ えみ
【評】クラゲが運河を埋め尽くしていたのですね。とすれば、切れ字「や」で切らず、「運河に」しましょう。
△ 熊蝉の声途切れたる5秒間 万亀子
【評】俳句では算用数字は使いません。「五秒間」としましょう。この五秒間を面白いととるかどうか、このへんは読み手次第でしょうか。わたし自身は今一つその面白みを感受できませんでした。
○目の合へば固まりゐたる守宮かな 万亀子
【評】身がすくんで、逃げることもできなかったのでしょうね。「目の合ひて」としたほうが調べがよくなります。
△~○悠揚と川面緑に梅雨明 永河
【評】「悠揚と」は「川面」ではなく「川」自体の形容としたほうがよいと思います。「梅雨明」は「ばいうあけ」でしょうか。俳句では「つゆあけ」と読むのが一般的です。
川の水が緑になるのは梅雨明よりもうすこし後のような気もしますので、たとえば「悠揚と川は緑に日の盛」としてみたくなりました。
△空蝉の己が躯(むくろ)を見つめゐる 永河
【評】雰囲気はあるものの、今一つ句意がとれませんでした。蝉の抜け殻は死骸ではないので、むくろというのも違和感があります。このような観念的な方向に俳句の可能性はあるのかどうか・・・。わたしは懐疑的です。
△石段に沢蟹走る寺の朝 美春
【評】上五・中七まではけっこうです。しかし「寺の朝」は何だか取って付けたようで、今一つです。抹香臭い「寺」など持ってこなくてもよいのではないでしょうか。
△岩に落つしぶき届きて涼気かな 美春
【評】岩に〈落ちるしぶき〉ではなく、岩に〈落ちる水〉のしぶきですね。「岩に散る水のしぶきや涼新た」としてみました。
△~○瑠璃鳥を苔かと紛ふうまれたて 小茄子
【評】下五の「うまれたて」が取って付けたようです。「生まれたる瑠璃鳥青き苔のやう」ということでしょうか。
△~○コロナ禍や茅の輪合掌して潜る 小茄子
【評】「や」は感動を示す切れ字ですので、このままですと「コロナ禍」に感動している句になってしまいます。「コロナ禍」は前書に付けるとして、もう少し写生を深めましょう。
△~○かなぶんの灯に体当たり乱れをり 多喜
【評】下五「乱れをり」とは、何がどう乱れているのでしょう。かなぶんが何度も何度も電灯に体当たりしているところを描写して「かなぶんの灯に体当たり体当たり」と描写するのも一法でしょう。
○~◎浴衣着てステイホームのうちごはん 多喜
【評】平易な表現で素直に作られた句です。なにより明朗に詠まれているのがいいですね。楽しさが伝わってきます。
次回は8月25日(火)に掲載予定です。前日24日の午後6時までにご投句頂けると幸いです。河原地英武