「カナリア俳壇」27

世の中は新型肺炎のニュースでもちきりですね。一体どのように収束するのでしょう。俳人としてはどんなときでも平常心で句を詠んでゆきたいものですね。
今回もたくさんのご投句をありがとうございました。

○米寿過ぎ今年も無事に札納め   蓉子

【評】すなおに実感を詠んでいる良い句です。「俳句は日記」という言い方もありますが、まさにそのような作品ですね。

△竜の玉瑠璃に色づく葉陰かな   蓉子

【評】きちんとできている美しい句です。ですからどこも直すところはありません。ただ、竜の玉が瑠璃色であるという指摘は昔からありますので、それだけですと新鮮さに欠けるのは否めません。

○暗雲や冬将軍は攻めて来ず   永河

【評】ウイットに富んだ作風で、現代の気候を巧みに切り取っています。空はどんよりしているのに、本格的な寒さはやってこず、冬そのものが変質している昨今ですね。テレビで世界の気象情報を見ていたら、モスクワも今日あたりはマイナス1度とか。本当に冬将軍はどこへ行ってしまったのでしょう。

○冬の国道白線引くや湯気あげて   永河

【評】上七や三段切れは俳句の常道から外れますが、「国道」という硬質な言葉の響きのせいか、無機的で現代風の作品に仕上がっています。定型に収めるなら「白線を引けば湯気上ぐ冬の路」となりますが、それだと原句の持つ味わいは消えてしまいますね。このままでよいでしょう。

○春立つや折り鶴母の枕元   多喜

【評】きっとお母さんは床に臥せっておられるのですね。快癒を祈る作者の気持ちがよく伝わってきます。このままの形ですと、「折り鶴」と「母の枕元」の間に切れができてしまいますので、たとえば「春立つや折り鶴母の枕辺に」でどうでしょう。

△~○病窓に見やる伊吹や寒雀   多喜

【評】「伊吹や」の「や」は感動の焦点を示す切れ字ですので、作者は雄大な伊吹山を見つめ感動していることになります。とすると、この「寒雀」は視界を遮る邪魔者ということになってしまいそうです。「伊吹山見ゆる窓辺に寒雀」として、前書きに「病室より」と記すのも一法でしょう。

△跡取りの帰るを待つて福は内   マユミ

【評】状況はなんとなくわかるのですが、「帰るを待つて」はいかにも説明的でまだるっこい感じがします。映画の一場面を切り取るように、ある瞬間を写生すれば、もっと躍動感が出るでしょう。一例として「帰り来し跡取りの子に福は内」。

△庭で飼ふ鶏の声日脚伸ぶ   マユミ

【評】「庭で飼ふ」が説明的で、感動を弱めています。また「鶏の声」だけですと明け方のイメージがあります。「日脚伸ぶ」は午後から夕方にかけての感慨ですから、その長閑さがうまく出るといいですね。これも一例ですが「鶏のこゑ追ふ子供日脚伸ぶ」。ただ、漢字が5つも続くと伸びやかさが減じますので、春の季語になりますが「鶏のこゑ追ふ子供夕永し」としてみたくなりました。

△~○べつとりと靴に春泥登山道   万亀子

【評】まさに春らしい光景ですが、「べつとりと」はなにか汚い感じです。たとえば、「パンにべっとりとバターを塗る」といえば、美味しそうではありません。ここはやはり「たっぷりと」にしましょう。それから季語「春泥」は「春のぬかるみ」のことです。靴につくのは「ぬかるみ」そのものではなく、「春の泥」ですね。「たつぷりと靴につく泥春の山」など。

△「福は内」声張り上げる異邦人   万亀子

【評】一口に「異邦人」と言っても、ヨーロッパ系の人もいればアジア系の人もいます。これでは具体的な景が浮かびません。それと、通りすがりに見かけただけの光景では感動も薄くなります。その外国人と自分との関係が見えてくるといいですね。たとえば「声太くロシアの友の福は内」。

△~○悴んで釣餌ほろつと舟のうへ   すず菜

【評】状況はよくわかります。ただし語法的なことを言いますと、このままでは釣り餌そのものが悴んでいるみたいです。「ほろつと」という修飾語がなくなってしまいますが、「悴める指から釣餌舟底へ」とする手もありそうです。

○~◎花ひらくやうに寒鯉寄り合へり   すず菜

【評】美しい句です。春がすぐそこまで来ている感じがうまく捉えられていますね。「花ひらくやうに」という華やかな措辞に対しては、「寄り合へり」という静かな言葉より、もっと強い調子の語を持ってきたいところです。「花ひらくやうに寒鯉集まれり」とすればもう少し勢いが出るように思いました。

◎児に作る針目の粗き吊し雛   妙好

【評】「針目の粗き」という具体描写がいいですね。店で売られている雛人形などとは異なる、もっと素朴でひなびた味わいの吊し雛が見えてきました。なつかしさを感じさせる作品です。

○~◎立春や野菜サラダの黄パプリカ   妙好

【評】「春」と「野菜サラダ」を取り合わせた句は割とよくありますので、多少類想的ですが、何といっても「黄パプリカ」の印象が鮮明です。パプリカも野菜の一つですので、「野菜サラダ」の「野菜」は省きましょう。重複感があります。あと、作者自身がそのサラダを作っている感じが出せるとさらに生き生きとしてきます。「立春やサラダに和へる黄パプリカ」など。季語も「早春や」のほうが軽やかさが出ていいかもしれません。

△~○車座の薪ストーブの読書会   剛司

【評】とてもすてきな読書会ですね。「車座<の>薪ストープ」、「薪ストーブ<の>読書会」に表現上の無理が感じられます。もっとあっさり詠んだ方がいいような気もします。たとえば「読書会薪ストーブを真ん中に」でいかがでしょう。

○~◎釣人や比良の暮雪の真向かひに   剛司

【評】大きな景が見えてきます。暮雪「の」でなく、暮雪「を」のほうが自然かもしれません。それから、何を釣っているか明示すると具体性が増すように思います。「鮒釣れり比良の暮雪を真向ひに」など。送り仮名はできるだけ減らすと句が引き締まります。

○二ン月やうすもも色の本の帯   徒歩

【評】「二ン月」は俳句特有の言葉で好き嫌いが分かれるところですが、わたしは都はるみが歌う「アンコ椿は恋の花」の、あの独特のうなり節を連想します。要するに語感にちょっと演歌が入っているのです。とすると、「うすもも色」よりもう少しだけ濃いほうが面白いかもしれませんね。「二ン月やからくれなゐの本の帯」など。まあ、これは趣味の問題ですのでご参考までに。

◎春光やトニックの瓶前を向き   徒歩

【評】「前を向き」になんとも言えぬ味わいがあります。この解釈しきれない面白さに俳句の真骨頂があるように思います。映像では絶対に伝えられない妙味です。わたしが探求しているのもこのような作風の句です。

△浮き雲や写る宿木膨らめり   美春

【評】「浮き雲や」とありますから、作者の目は空を向いているのですね。一方、「写る宿木」とは地面に映った影でしょうか。とすると、視線が空と地面に分裂してしまいます。「宿木の膨らみてをり春の空」と単純化すれば句意ははっきりします。

△三年目やらやら採れし春子かな   美春

【評】「春子」とは春に取れるシイタケのことですね。栽培を始めて三年目に、ようやくたくさん収穫できるようになったという句意かと思います。「やらやら」はちょっと聞き慣れない表現ですが、それをあえて使うなら、語順を入れ替え、「やらやらと採れし春子や三年目」でどうでしょう。

○木枯しを受けて漕ぎたり漕艇部   豊喜

【評】豊喜さんは学生時代、漕艇部に所属していたとか。真冬にも訓練を積むのですね。このままでもしっかりとした句ですが、さらに勇ましさを出すとすれば、「木枯しに向かひ漕ぎたり漕艇部」としてもいいですね。

△~○牡蠣棚を後ろに漕ぎし冬の海   豊喜

【評】まず「牡蠣棚」が冬の季語になりますので(「牡蠣」の傍題)、「冬の海」だと季重なりになります。また、「牡蠣棚」ならば「海」は言わずもがなですね。「牡蠣棚をはるか後ろにボート漕ぐ」でいかがでしょう。

【お知らせ】2月中旬から3月上旬にかけて海外出張しなくてはならないため、次回の投句締切りは通常のペースより1週間遅く、3月9日(月)とさせてください。お送りいただいた作品は、10日(火)に掲載いたします。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスはefude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。

 


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