たくさんのご投句をありがとうございました。6月6日から25日までに頂いた句をコメント付きで掲載いたします。ご参考にして下さい。
〇母に手を引かれ遠き日彼岸道 マスオ
【評】少年の日の思い出ですね。「母に手を引かれ」を用いた類句はけっこうありそうですが、ノスタルジーいっぱいの抒情句です。
〇平成の御代は令和へ花筏 マスオ
【評】添えられた文章のなかで季語の可否について述べておられましたが、これで結構と思います。改元は5月1日だから季語が合わないのではないか、との意見も出そうですが、日本は南北に長いので、地域によってはこのような景が見られるでしょう、それに新元号が発表されたのは4月1日ですので、もうじき変わる元号に思いをはせて作った句としても読めます。この季語から一筋の川の流れが見えます。元号が改まっても、よきものは引き継がなければならないとの作者の思いをしかと受け止めました。
△~〇「代はり鬼」と子らは缶蹴り芥子坊主 万亀子
【評】作者の説明によると「代はり鬼」とは小さい子に代わって大きな子が鬼になってあげることとか。初めて知りました。読者にうまく伝わるとよいのですが、もっと一般的な表現に変えるのも一法でしょう。「缶蹴の鬼は小さき子芥子坊主」(季語に合わせて「小(ち)さき子」にしてみました)。
△部屋干しの竿に玉葱間借りせり 万亀子
【評】部屋の中で玉葱を干していることを、玉葱の立場になって擬人法を用い、「間借り」したと表現したわけですね。そこに作者の機智を感じますが、俳句は「智」でなく、素直な「情」で作ったほうがよいのです。「部屋干しの竿に玉葱吊るしけり」で十分でしょう。
〇変はりなき朝日射したる蜘蛛の糸 徒歩
【評】この句こそ前書きをつけてほしいと思います。「変はりなき」という措辞に、作者の並々ならぬ気持ちがこめられているように感じるからです。たとえば天変地異とか戦争とか、日常をがらりと変えてしまうような災厄があったあとは、この「変はりなき」ことがどれほど尊く思われることでしょう。
△杣道を頼りの峠蝉丸忌 徒歩
【評】滋賀県大津市にある蝉丸神社あたりを歩かれたのでしょうか。いまでも薄暗い鄙びた道ですが、昔はあの辺を通るのがかなり怖かったはず。「頼りの」はそのへんの事情をさしているのでしょう。「杣道」と「峠」という地理的な言葉の重なりが気になります。どちらかをカットすると更にすっきりしそうです。
△黒南風の潮の湿りや舟廊下 マユミ
【評】「南風」といえば海などを連想させます。また「黒」南風ですから、「湿り」も当然にあるでしょう。したがって「黒南風」といえば、「湖」や「湿り」は言わなくてもいいわけです。それに「舟廊下」といえば、琵琶湖の竹生島宝厳寺とわかりますので、そもそも「湖」が不要です。そのへんが心配でしたら、前書きに「宝厳寺」と記してもいいですね。上五を「黒南風や」、下五を「舟廊下」とし、中七をもう一工夫して下さい。
〇~◎弁天の御座する島に枇杷熟るる マユミ
【評】「御座(おわ)す」と読むのですね。「島に」の「に」がいかにも説明くさいので、「島や」と切ってしまいましょう。それで一段と広がりのある句になるように思います。
◎ラムネ飲む楷書の父とかなの母 妙好
【評】ノスタルジックな季語から、在りし日の父と母を回想しての一句と受け止めました。この「楷書」と「かな」は文字そのものというより、お二人の人柄を象徴しているようですね。どこかユーモラスで抒情もある佳句と思います。
◎青ぶだう少女の胸のふくらみて 妙好
【評】半袖の白いスクールシャツを着た女生徒を思い浮かべました。平仮名の多用が句を明るくしていますね。季語もすてきです。清楚で若さあふれる一句です。
◎土砂降りに金魚の紅の滲みけり 音羽
【評】金魚売のたらいの水を土砂降りの雨が打っているのですね。水面が崩れ、金魚の姿も激しくゆがみ、まるで紅が滲んでいるように見えたのでしょう。感覚的で印象鮮明な句です。
〇打水や灯の点りたる割烹屋 音羽
【評】情緒もあり、よく整った句です。切れ字の使い方も申し分ありません。ただ、夏定番の風物詩といった感じで、JR西日本のコマーシャルを思わせます。その点では月並調で、類句もありそうです。
〇梅雨入や煤匂ひ立つ合掌家 瓜子
【評】しっかりとした写生句です。季語と煤と合掌家もうまくマッチしていると思います。あえて言えば、煤が「匂ひ立つ」という表現に多少の違和感があります。匂い立つのは、何か鮮烈なものだという気がするからです。煤はもっと籠るような匂いではないでしょうか。中七は「煤の匂ひの」くらいでいかがでしょう。
△尺蠖のカーブ大きく風孕む 瓜子
【評】「カーブ大きく」は尺取虫の身体のしなり具合をさすのでしょうか。また「風孕む」の孕むは、どの場所をさしているのでしょう。鯉のぼりなら風を孕めそうですが、尺取虫では無理ですし。「尺蠖」と「風」の関係をもっと素直に、そしてあっさりと詠むほうがよいように感じます。
〇立ち上がり泣かずにゐる子夏薊 永河
【評】「泣かずにゐる子」の「ゐる」がこの句のポイントでしょう。この「ゐる」に静かな時間を感じます。しかしこの間、子の心には、泣こうか、泣くまいか、ひそかな葛藤があるのでしょうね。季語は初夏の気持ちよい山野を連想させます。
△~〇あぢさゐや美空ひばりのこゑの色 永河
【評】美空ひばりの声を色にたとえるなら、紫陽花の色(たぶん空色)だと見定めているのですね。類想のないユニークな作品です。ただし作者の才気が目立ちすぎ、好き嫌いが分かれるところです。「こゑの色」まで言わず、その部分は読者の感性に委ねるような作り方にすると秀句になりそうです。これでは作者が一人で答えを出してしまい、読者はおいてけぼりを食っている気がしてしまうのです。
△~〇信濃路や残雪光り山の峰 蓉
【評】残雪「光り」ではなく、「光る」と連体形にしましょう。いかにも信州らしい景色です。「山の峰」の「山」と「峰」に重複感がありますので、このへんが何とかできるといいですね。類句はありそうです。
△夏木立日々緑色深まりて 蓉
【評】日々緑が深まっていくのが夏の木の特徴です。ですから、この句はただ季語の説明をしただけにとどまっています。作者ならではの観察や感性が出てくるといいですね。
△御田植の早乙女泥へ白き膝 豊喜
【評】田植えをする女性のことを「早乙女」と言いますので、「御田植」と「早乙女」では季重なりになります。「泥へ白き膝」も言葉足らずな感じがします。「早乙女の白き膝はや泥まみれ」など、一工夫してみて下さい。
△黒南風に箱根の山やけぶりたる 豊喜
【評】「南風(はえ)」は西日本の方言ですので、関東の箱根に使うとちぐはぐな感じがします。「黒南風に」の「に」もちょっと説明的です。「梅雨冷や箱根の山はけぶりたる」などご一考を。
次は7月16日に掲載の予定です。いよいよ夏も本番ですね。みなさんの佳句を楽しみにしております。河原地英武