カナリアに聞く~戸田真紀子さん

エリトリア

――人災の理由は?
現在、エチオピアの上にエリトリアという国がありますが、1980年代はまだエチオピアの一部でした。第二次世界大戦の時期にエリトリアの統治者はイタリアからイギリスに変わり、戦後は国際連合を舞台とした大国の駆け引きにより、エリトリアの人びとは独立を求めていたにもかかわらず、エチオピアと連邦を組むことが国連で決定され、その後、エチオピアに併合されました。1960年代以降、エリトリアの人びとは武装解放闘争を始めていました。このエリトリアのの飢餓がとても酷かったのです。支援物資は海外からたくさん届いていたのですが、政府はゲリラが支配する地域(=エリトリア)に食料を届けたくないので妨害し、そのために多くの人が亡くなりました。海外からの支援物資が内戦を戦うエチオピア軍の兵士に配給されたという報告もありました。当時の映像では、エチオピアの首都アディスアベバのマーケットには食べ物は豊富にあるのに、(イギリスBBCが取材をした)コレム難民キャンプでは毎日大勢が餓死していました。その頃、日本や欧米は余った野菜や食料を大金かけて廃棄していました。世界中に、そしてエチオピア国内にも、食料はあったわけです。でも、政治的判断によりそれが飢えている人びとのところには届かなかった。だから、この時期のアフリカの飢餓は、天災ではなくて人災だと言われるのです。
1980年代にはモザンビークでもたくさんの人びと、特に子ども達が飢えて亡くなりましたが、国連からの要請にも関わらず、モザンビークが社会主義国であったという理由で、西側諸国はモザンビークが社会主義を放棄するまでは積極的に援助しようとはしませんでした。アフリカの飢餓はけっして干ばつなどの自然災害だけが原因ではないことを、私たちは知らされていないのです。

――戸田先生ご自身もアフリカでフィールドワークをされていたと伺っていますが。
2000年から11年間、ケニア共和国の北東部に毎年通いました。以前私が勤めていた大学にJICA(国際協力機構)の関係者が来られた際に、この地域で日本人が所長を務めるNGOが頑張っていることをお話したら、ぜひ「草の根技術協力事業」に応募してくださいという話になったのです。プロジェクトは女子高生の中退率を下げるための取り組みで、採択まで7年も待ちました。採択後は、まず、様々な問題を抱える女子高生が安心して相談に行けるように、カウンセリングルームを2つの女子高に建設しました。当時の北東部州の各高校のカウンセリング担当の先生方を中心に、30人ほどに集まって頂き、この地域のほとんどの人びとが信仰するイスラームの教えに基づいたカウンセリングのあり方を考えるセミナーも開催しました。2011年8月に開催した第1回セミナーは大変好評で、参加された先生方の要望で翌年2月に開催予定だった第2回セミナー3ヵ月後の11月に行うことになりました。ところが、10月にケニア軍が、これは国連の判断ですが、安保理決議に従ってアフリカ連合によるアル・シャバブの掃討作戦に加わる形で、国境を越えて隣国ソマリアに攻め込んでいきました。アル・シャバブとはソマリア南部を中心に活動するイスラーム過激派組織です。ソマリアの人びともケニア北東部の人びとも、大部分は同じ民族、ソマリ人なのですが、アル・シャバブの報復攻撃(キリスト教徒をターゲットにします)はすぐに始まり、セミナーの継続が不可能となりました。念願のプロジェクトでしたので非常に悩みましたが、JICAの事業である限り、日の丸を掲げてやることなので、アルシャバブの格好の攻撃ターゲットになります。私だけでなく、裏方で一生懸命頑張ってくれたNGOのスタッフも、セミナーに参加して下さっていた州教育庁の関係者、セミナー講師、そして高校の先生方も巻き込まれることになりますので、泣く泣く断念しました。3年計画の事業でしたが、1年半で撤退せざるを得なくなり、資金もJICAに返しました。実は、大学教員である私の都合で、1回目のセミナーの開催を大学の夏休みまで待たざるをえませんでした。事業の採択があと3カ月早かったら、採択の年に1回目のセミナーが開催できて、アルシャバブの攻撃までに事業は完了していました。今でもこのことを思い出すと、残念でなりません。


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