かわらじ先生の国際講座~米朝首脳会談を振り返って

先月(2月)27日と28日、ベトナムのハノイで米朝首脳会談が行われましたが、合意に至らず、物別れに終わりました。何が原因だったのでしょう?

単純化して言えば、北朝鮮はアメリカが求める非核化の具体的措置を拒み、それならばと、アメリカも北朝鮮が望む経済制裁の解除をつっぱねたということでしょう。北朝鮮側は寧辺の核施設廃棄と核・ミサイル発射実験の中止を約束しました。しかしアメリカ側は北朝鮮が秘匿しているもう一つの核施設の廃棄を要求した模様です。北朝鮮がそれを受け入れず、交渉は頓挫したということのようです。

このような首脳会談の決裂は異例ではありませんか。

ふつうは事前に官僚レベルでの実務者間協議を積み重ね、いろいろな障害を解決した上で首脳会談が開かれます。ですから首脳会談は半ばセレモニー的な性格をもち、まず決裂には至らないものです。今回は準備不足を否めません。トランプ氏も金正恩氏も個人の力を過信したのかもしれませんね。自分ならば相手を説得できると思ったものの、いざ交渉を始めてみたら、思いのほか溝が深かったということではないでしょうか。

では米朝ともに大失敗ということでしょうか?

そこは難しいところです。それぞれ安易な形で相手側に譲歩しなかったということで、威信を保つことができました。トランプ大統領にしても国益を守ったと評されていますし。もし今回、何かしらの合意文書が調印されていたら、逆に白々しいものが露呈していたでしょう。

それはどういうことですか?

トランプ氏と金正恩氏によるただの政治ショーだと言われかねない危うい首脳会談でしたから。トランプ氏にとっては大統領選に向けての点数稼ぎ、金正恩氏にとっても自らの政権延命策。米朝首脳が何かを合意したところで、世界情勢が大きく変わるわけでない。所詮は二人の指導者の都合による合意と言われても仕方のない、内実の乏しいものになった気がします。

冷やかな見方ですね。

これは国際政治学者としての感触です。たとえば1970年代の米中国交正常化にはもっと高揚感がありました。日中も国交を結び、世界は緊張緩和(デタント)と呼ばれる時代を迎えました。あるいは1980年代の後半、レーガン大統領とゴルバチョフ書記長の首脳会談は、冷戦の終結をもたらし、世界を一変させるインパクトがありました。ところが今日の米朝首脳会談はどうでしょう。かりに合意が得られたところで世界はどれほど変わるでしょう。東アジアや日本にとってはどうでしょう。

つまり米朝首脳の合意は国際情勢と連動するものでなければ意味がないということですか?

はい。少なくとも東アジア情勢の緊張が緩和し、平和の気運が高まらなくては意味がありません。日本が過去最高の防衛予算を組み、アメリカからイージスアショアを購入し(これは北朝鮮のミサイルに備えるためのものです)、新たな米軍基地のために辺野古沖の埋立を続行したままでは、米朝が仲良くなったところで何のメリットもありません。拉致問題はもちろんですが、日本の防衛政策や在日米軍基地問題が大きく改まるほどの条件が揃ってこその米朝和解でなければ、所詮はただの政治ショーに終わってしまうでしょう。
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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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