個性的な10人が箱根駅伝を目指す「夢に向かって背中を押してもらえた本」ランキング1位になった三浦しをんの小説。襷をつないで仲間とつながる青春小説は、若い人はもちろん、年を重ねた世代の心も揺さぶります。人生のバイブルだと何度も読み返す人、もっと早くこの本に出会いたかった、陸上の現役時代に読みたかったという声も聞きます。今年はスポーツ界のパワハラが問題になりましたが、頑張る人の心の支えになるだけでなく、才能のある者をどう導くかという指導書としても興味深い。
ある事情で陸上から離れていた走(カケル)を箱根駅伝にいざなう灰二は「長距離選手にとって一番の褒め言葉は“速い”でなく“強い”だ」と言います。メンバーには走のような天才ランナーもいれば、才能に恵まれながら選手として致命的な故障を抱える者も。「走るために生まれたと信じ、それにすべてをかけて来たのに、清瀬の体は清瀬の意思を裏切った」という残酷な言葉。あるいは走ることが好きなのに骨太で脂肪を蓄えやすい体質は長距離には不向きだと思い知らされて陸上を諦めた者も。三浦しをんは箱根を目指す学生たちの魅力や真剣さにひかれたこと以上に「努力神話について考えてみたかった」と語っています。「報われなかったのは頑張らなかったからだという考え方に納得がいかない、出来る、出来ないという基準ではない価値を築けるかどうか小説を通じて考えてみたかった、報われなかったからといって絶望することはないんじゃないか、と」(文庫本解説より)。
2006年に出版されたこの作品が、現在アニメ化されて地上波とネット配信されています。アニメ化に合わせて、文庫本は三浦しをん書き下ろしの掌編が収録されたフルカバー付。アニメが面白くて原作を読んで泣いた、600ページ以上を徹夜で読破した人も。小説もアニメも老若男女楽しめる作品です。年末年始に読んで、お正月の箱根駅伝を楽しみましょう! その前に明日は京都で高校駅伝ですね。(モモ母)