高齢期の暮らしと住まい(30)

元気なうちに自ら高齢者住宅へ

高齢世代の方々に向けた「高齢期の住み替え」セミナーの講師をしていますと、将来への不安を感じる人が、年々増えていくことを実感します。高齢期の住み替えは、「今の元気なうちに、将来の介護なども含めてあらかじめ住み替えておく」という考え方、「できるだけ今の自宅で過ごして、介護が重くなれば介護施設へ住み替える」という考え方に大別できます。いずれの考え方でも、自分に合う人生設計をたてればいいと思うのですが、この「住み替えタイミング」はいずれにしても、簡単とはいえません。特に、自立・元気なうちに、「自分で決める」ことは、意外とハードルがあることを、先日ある自立型有料老人ホームの担当者にお聞きしました。

 

自立型ホームに入居できなかった理由

自立型の高齢者住宅の代表的なものが、「自立型」有料老人ホームといわれる施設です。世の中の有料老人ホームは、90%以上は介護型ですので、自立型はかなり少ないといえます。自立型ホームの入居条件は、原則「自立」がルールです。「要介護認定を受けていない」という意味ではなく、そのホームが、その施設で自立して過ごせるかどうか総合的に判断します。「いつか自立型ホームに入居する」「入居の契約はして後は引っ越すのみ」という方でも入居に至らなかった原因のトップ3は、「家族・親族からの反対」「本人・配偶者の身体能力低下」「加齢による判断力の低下」だそうです。本人が決心したものの、子どもの反対で断念する人は少なくなく、その後「要介護」になっても、子どもが介護をするわけではなく、慌てて介護施設を探すとか。そうなると人生設計が大きく崩れることにもなるので、子世代が親の最後の人生設計のハードルになるとは、なんとも複雑な心境になりました。

 

想像以上に判断・決断力は低下する

さらに、高齢期は元気に見えても、心身の能力の低下はいきなりやってくることも多いです。事業者の方いわく、とくに「夏場を乗り切れない」高齢者が増えているとか。「秋になって少し涼しくなったら引っ越しを」と考えていたものの、猛暑に脱水症状を起こし一気に重い要介護になってしまう人も、少なくないそうです。確かに冬を乗り越えるより、高齢期は夏を乗り越えることが体力的にはきついと感じます。さらにいったん決めていたことも、心身の衰弱とともに行動する決断が鈍ってしまい、同じく一気に介護状態になる場合もあるとか。老後の設計は、「まだ」「いつか」は、禁物かもしれませんね。

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山中由美<エイジング・デザイン研究所>
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。2016年独立。