住まいとケアの分離
日本では「高齢者住宅=介護施設」というイメージが強く、高齢者が移り住む住宅(施設)は介護を受けるところと思い込んでいる方がまだまだ多いと実感します。実際先進諸国に比べると日本では、自立高齢者が早めに移り住む、イザというときの緊急対応や生活相談がついた「高齢者住宅(自立型)」が非常に少ないのです。欧州では、高齢期に単身もしくは高齢夫婦のみになったとき、高齢者住宅に住み替えるケースが多く、さまざまな高齢者住宅が存在します。そして介護は基本は外付け。高齢者住宅に住みながら必要になれば、介護は近隣の介護事業者から提供される。日本の在宅介護サービスと概念は同じながら、内容は全く違うといえます。以前は欧州も介護施設が多かったのですが、1990年代に「住まいとケアの分離」政策を進めました。
措置から利用制度(市場化へ)
ただしそれができるのは、欧州では介護は措置制度もしくは措置に近いケースがほとんど。日本の介護は、介護保険制度ができるまでが措置制度、「公的」サービスとして提供されていました。しかし介護保険ができてからは、サービス提供者は原則民間です。勘違いされやすいですが、社会福祉法人も民間です。そして、責任もお役所ではなく、自己責任のもと民間との契約に移行しました。これを市場化といいます。この問題点は、市場(事業者)任せであるため、事業者が自分が営業したいところで提供するので、地域によりサービス量(種類・品質)に偏りがでます。本来、自宅(在宅)でも高齢者住宅でも同じレベル(量)で介護を受けられるはずが、日本では高齢者施設が圧倒的にサービス量が多いというのが現実でしょう。
自己意識の変革も大切
欧州の研究では介護が内包された施設では、入居者の自立を損ねるリスクも高いといわれています。一方で、何も支援サービスがない場合は同様に自立を損ねることにもなりかねず、「その人にとって必要な支援」を個別に実施するとともに、高齢者本人の「自分でできることは自分でする」という意識も非常に大切です。デンマークでは「介護施設に行きたくない」と思う高齢者が多く、それを動機に高齢者住宅を終の棲家とすべく、できるだけ自分で努力する人が多いそうです。介護を「サービス」と呼ぶところが、まず間違っているかもしれませんね。
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山中由美<エイジング・デザイン研究所>
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。2016年独立。