医療費削減対策、今さらな言い分?
先週いくつか医療に関する厚労省の有識者会議での内容が報道されました。ひとつは「高齢者の多剤服用の改善」、もうひとつは「病院過剰の是正」。しかし今さら感を持つ人も多いのではないでしょうか。まず「多剤服薬」ですが、随分昔から言われていたこと。75歳以上の40%が1ヶ月で5種類以上、25%は7種類以上をひとつの薬局でもらっているとのこと。1人で複数の薬局を利用する人はさらに薬の数は多くなります。一方で、薬の副作用による問題も多発している現実。厚労省は、医師・医療機関向けに薬を減らすよう指針を出すようですが、今頃になってようやく…というのは「医療費削減」が目的としか思えませんね。もうひとつの病院過剰。医師不足が問題化しているのに病院は多い?何とも不思議な現象ですが、こちらも「病院があるから安易に人々が病院に行き入院する」という捉え方のようです。違和感を感じる人は多いのではないでしょうか。
はしごを外す?
日本の医療はフリーアクセスと言われ、誰でもどこでも希望する医療機関にかかれる制度です。欧州の国々では、ほとんどが家庭医(GP)制度で、人は1医師(クリニック)に登録され原則自由に病院には行けません。まずは家庭医に相談して必要があれば病院に繋げてくれます。1クリニックは1200~1500人程度の住民を受け持ち、開業の際には廃業する医師から開業権を購入する必要があり、行政で医療機関数がコントロールされています(クリニックは住民が選ぶことができる)。日本はそのような規制がなく、いわゆる市場化(自由に開業)となっており、必然的に増加していきました。ある意味それは国の経済対策でもあり、今頃になって病院を減らす方向転換というのは、経営側にも住民側にもはしごを外された感がありますね。家庭医制度もフリーアクセスもいずれもメリット・デメリットがあるので一概に善し悪しは語れませんが…。
私たちの意識も大切
同様に、お薬も薬局、病院で気軽にもらえる環境です。特に高齢者は自ら薬を希望する人も多いようです。しかし、特に高齢期の服薬副作用は意識低下(認知症に似た症状等)、転倒・ふらつきなど日常生活に大きな影響を与える場合もあり、以前から危険性が伝えられています。認知症薬の副作用を警告する医師も少なくありません(効果に個人差が大きい)。なんでも薬に頼るのではなく、食生活や運動などの手間をかけた対策など、普段の日常生活の改善こそが本来大切だと感じます。
薬、病院、と私たちの命や健康に関わる政策が今後大きく舵を切る可能性が出てきています。改善策であることを願うとともに、一人ひとりも自己管理をしっかりしていく必要があります。
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山中由美<エイジング・デザイン研究所>
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。2016年独立。