高齢期、賃貸の住まい

日本では持ち家率が高齢になるほど高くなりますが実態はどうでしょうか。独居高齢者だけを見てみるとその数字は少し異なってきます。2016年の総務省家計調査データによると、高齢者夫婦（無職）世帯の持ち家率は94.7%と非常に高い一方で、高齢単身世帯は82.2%、なかでも女性単身者は84.0%ながら、男性単身者が78.2%と低くなっています。日本の住宅事情は、先進諸国に比べて「公営住宅」比率がとても少ないことが特徴です。結果的に、賃貸暮らしの高齢者は家賃負担が大きくなりがちな民間賃貸住宅に居住する人が多くなります。しかし、民間借家に住む高齢者は所得が低い傾向です。さらに問題は、「高齢者への賃貸」を拒否する貸主もいまだに多い実情。国の調査では、高齢者の入居に対し約6割の大家が拒否感を持っているとされています。建物の老朽化や建替えで住み続けることが困難な高齢者の移り住み先確保が大きな問題となっています。なぜ高齢者が簡単に賃貸住宅を確保できないのか。以前は「家賃滞納」が一番の課題でしたが、長寿化した昨今は、滞納より「孤独死」「認知症」「重度の介護」などが大家さんの困惑となっているのです。

 

空き家と「住宅確保要配慮者」対策

賃貸住宅を確保できな人は高齢者だけではありません。障害を持っている人、外国人、母子家庭など社会的弱者と言われる人々にこそ本来必要な住宅施策が整備されていません。一方で、平成25年の調査では空家は820万戸（うち賃貸用住宅は429万戸）もあると言われ、その対策が課題となっており、大きな矛盾が発生しています。そこで、国は「新たな住宅セーフティネット」として昨年10月25日に「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」を施行しました。ポイントは、①住宅確保が困難な人の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度、②住宅をバリアフリーにするなど改修費用の補助、入居する人への家賃補助、③住宅確保が困難な人への住居紹介やその後のサポートなど、です。特に高齢者の孤独死などを不安視する大家さんのために、地域の社会福祉法人やNPO法人も関わり、安否確認や生活相談に応じる仕組みも整えられています。

 

自治体により温度差

この制度は公的機関だけでは成り立たないので、地方公共団体（役所の住宅部局や福祉部局）と連携して、地元の不動産会社、社会福祉法人などとともに「居住支援協議会」を設立します。平成29年10月時点で、全都道府県に設置はされているものの、動くことのできない住宅には市町村の参加が欠かせないのですが、区市町村で協議会を設置しているのは22区市町村しかありません。また、具体的に居住支援を行う「居住支援法人」の業務には任意業務もあり、見守り等の生活支援を必ずしもしなくてもよいことになっています。この点は、自治体ごとに取組みに大きく差が出ているように感じます。せっかくの制度なので、任意ではなく全て必須にすべきと感じたりもします。ちなみに京都市では『京都市すこやか住宅ネット』として、高齢者の見守りや家賃債務保証制度など、地域の不動産会社・社会福祉法人などと連携しサポートし、実績も上がっています。

今後さらに独居高齢者が全国的に増加することが予測されています。高齢者というと「介護」に目が向きがちですが、それ以前に「居住」の安定が必須です。暮らしやすい環境が介護予防になることは確実です。公共団体はもちろんのこと、地域の不動産関連企業、介護事業者などが是非連携して「居住」問題を考えてほしいですね。

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山中由美＜エイジング・デザイン研究所＞
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。2016年独立。