「カナリア俳壇」83

大型連休も終り、雨がちの日が続いていますが、6日には立夏を迎え、瑞々しい初夏がやってきました。わたしもこの時期ならではの自然を満喫し、さまざまな動植物に親しみたいものと考えております。

△~○風薫るジャズが流るるA列車     翆

【評】「A列車」とはニューヨークの地下鉄のことらしいですね。そういう名前のジャズ曲もあるとか。車内では「風薫る」ことはなさそうです。季語をご一考ください。

◎デコポンのカクテル香る初夏の旅     翠

【評】四国か九州を旅行されたのでしょうか。「カクテル」がお洒落でいいですね。心の浮き立つ句です。

○一品は姉の得意の蓬餅     作好

【評】久しぶりに会ったお姉さんが得意料理でもてなしてくれたのでしょう。蓬も庭でとれたものかもしれませんね。姉妹の和気藹々とした会話まで想像されます。

○掃き跡を残す参道落椿     作好

【評】「跡」と「残す」に若干重複感がありますので、「掃き跡のしるき参道落椿」くらいでどうでしょう。

○うさぎとかめ影絵ごつこのこどもの日     みさを

【評】こどもの日らしいのどかな風景です。切れを入れたいと思います。上五が字余りになりますが「うさぎとかめの影絵ごつこやこどもの日」としてみました。

○散策に付きつ離れつ四十雀     美春

【評】人なつこい四十雀ですね。もうすこしパンチを効かせるなら「行く吾に付いては離れ四十雀」あるいは「わが影に付かず離れず四十雀」とする手もありそうです。

○るり色の切子盃見上ぐなり     美春

【評】すなおな作りで結構です。「るり」は漢字にしたほうが印象が鮮明になる気がします。「瑠璃色の切子のグラス見上げけり」など。

△~○緑蔭のおにぎりの味小さき旅     ゆき

【評】「味」まで言わなくてもいいように思いました。「小さき旅」も省略していいでしょう。とりあえず「緑蔭で小さきおにぎり分け合へり」としてみました。

○若者の来てほしき日や柏餅     ゆき

【評】「若者」がやや漠然としています。「子供らと過ごしたき日や柏餅」など。

○緑陰や犬の余生を撫でるなり     白き花

【評】「余生を撫でる」にすこし無理を感じます。「緑蔭に余生の犬を撫でゐたり」など。

△~○時鳥鳴く声聞ひて夜深し      白き花

【評】「聞ひて」は誤用。「聞きて」か「聞いて」としましょう。しかし「声」といえば「聞く」ことは自明ですので、省略できますね。「時鳥一声鳴きて夜深し」など。

△~○ネモフィラの無人販売春の里     恵子

【評】動きがないので何か味気ない感じです。「ネモフィラを婆束ね売る春の里」などもう一工夫ほしいところです。

△~○晴天や上手く泳げぬ鯉のぼり     恵子

【評】今一つ漠然としています。「ベランダに風待ち顔の鯉幟」など、もう一つ具体的な要素がほしいところです。

◎風薫る子のクリニック開院日     妙好

【評】季語も合っていて、大変けっこうです。息子さんか娘さんが開院されたのですね。この句をプレゼントしたらきっと喜んでもらえるでしょう。

△~○看板に鮎と清流クリニック     妙好

【評】クリニックの看板に「鮎と清流」が描かれているのですか。看板の絵は一年を通して同じでしょうから、この「鮎」は季語として弱いように思いました。

○~◎夏めくや白衣まぶしき研修医    音羽

【評】初夏のすがすがしさが伝わってきます。句形も申し分ありません。ただし割と類句はありそうです。

○段畠をつるみて登る蝶の影    音羽

【評】概ねけっこうですが「蝶の影」が少々曖昧です。季を夏にし、大型の蝶を配してはいかがでしょう。「夏の蝶」または「揚羽蝶」など。

○廃線のトンネル抜けて新樹かな    多喜

【評】前書に「愛岐トンネル群二句」とあります。実際にこのトンネルを歩かれたのですね。前書があるので「廃線の」は不要でしょう。「隧道を抜けて眩しき新樹かな」や「隧道を抜けて新緑眩しめり」などとする手もありそうです。

○春風や辿る暗渠の赤煉瓦     多喜

【評】「辿る」がとってつけたようで気になりました。春風が暗渠を渡ることにして、「春の風わたる暗渠の赤煉瓦」でいかがでしょう。

○~◎酒蔵の静かににほふ清和かな    徒歩

【評】季語「清和」をもってきたところがユニークです。「静かににほふ」がやや弱い感じですので、たとえば「深閑と酒蔵にほふ清和かな」とするのも一法でしょうか。

◎汗拭ふ千の鳥居の頂に     徒歩

【評】伏見稲荷大社ですね。あの鳥居をくぐり終えるとちょっとした山を登り切った気分になりますね。「汗拭ふ」から達成感が伝わってきます。

△~○苔茂る馬越峠の石畳     万亀子

【評】馬越峠は熊野古道伊勢路の一部で、苔むした石畳で有名ですね。俳句としてはしっかりできていますが、景としては常識の範囲内でしょうか。

○天狗岩眼下に春の漁港かな     万亀子

【評】スケールが大きくて、写生もよく効いています。語順を入れ替え、「眼下には春の漁港や天狗岩」とすると、より安定した句になるように思います。

○尺取の見得を切るかに身を反らす     智代

【評】どこかユーモラスで情景もよく見えてきます。「見得を切るやうに尺取身を反らす」とすれば更に力のこもった句になります。

△~○半眼の眼差しやさし牛蛙     智代

【評】「半眼」ですから「眼差し」は重複感があります。「半眼のやさしき顔や牛蛙」くらいでどうでしょう。

△~○青葉光夫は無類の選挙好き     葉子

【評】「無類の選挙好き」は抽象観念ですので、具体的な情景描写がほしいところです。「青葉光夫は選挙の襷掛け」など。これでは立候補者のようだということであれば、「選挙応援」とでも前書を付けるといいでしょう。

△~○あの頃の君の口調や若葉風     葉子

【評】「あの頃」とはいつか、「君」とはだれか、どんな「口調」なのか、第三者にはまったく不明です。「遠き日の夫のささやき若葉風」など。

△~○紫陽花に子らの思いが短冊に     千代

【評】紫陽花に短冊を吊してあるのでしょうか。調べがよくないので、「短冊に子らの思ひや濃紫陽花」としておきます。

△~○木陰にてシ一ト拡げて筍飯     千代

【評】下五の字余りを何とかしたいですね。ここが俳句の頑張りどころです。「木の下の茣蓙に筍飯出せり」など。

◎父母の忌の皆息災や著莪の花     織美

【評】ご両親の忌日は、著莪の花が咲く時期なのですね。ご家族が息災で、穏やかにこの忌日を迎えることができるのは何よりの幸福でしょう。

◎青嵐や木曽の流れの深みどり     織美

【評】「青嵐(せいらん)」の調べも力強く、木曽川の流れも「深みどり」によって勢いを感じさせます。生命力のみなぎる夏らしい句です。

○七階のお子様ランチ昭和の日     あみか

【評】デパートの食堂で子供とランチを食べた思い出が蘇ります。上五をもっと具体的にし、たとえば「大丸の」とするのも手かもしれません。

○夏帽の少女無敵のメロンパン     あみか

【評】「無敵の」が一番言いたいことなのだと思いますが、そこを作者が言ってしまうと読者はしらけた気分になります。「夏帽の子がかぶりつくメロンパン」など。講評を述べ合う時、誰かが「メロンパンは無敵ですよね」と言ってくれたらもっけの幸いでしょう。

○エゴの花降る宇宙への扉かな     永河

【評】「宇宙への扉」が何を意味するのか、非常に解釈の難しい句です。この地球を銀河系の最果てに見立て「えごの花降るや銀河の最果てに」としてみたくなりました。

○わだかまり解けし如くに雉子(きぎす)鳴く     永河

【評】なかなか面白い句ですが「如く」とせず、本当にわだかまりが解けたことにしてもよさそうです。「わだかまり解けし夕暮きぎす啼く」など。

ジャカルタへ立つ子を送る青もみぢ     久美

【評】ジャカルタへは旅行でなく、仕事で行くのでしょうね。中七ではっきり切れを入れましょう。また、俳句では「青もみぢ」とせず「青かへで(青楓)」とします。「ジャカルタへ立つ子送れり青楓」。

○~◎瀬戸焼のいっちん絵付春まつり     久美

【評】絵付に「いっちん」と呼ばれる技法があるのですね。ネットでも検索し、初めて知りました。「っ」は大きく書きましょう。「瀬戸焼のいつちん絵付春まつり」。

次回は5月30日(火)の掲載となります。前日午後6時までにご投句頂ければ幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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