子ども政策の希望調査結果から考える

日本経済新聞が土曜日に配信する「NIKKEIプラス1」に「何でもランキング」という記事があります。3月25日の実現してほしい子ども政策に関するランキングが大変興味深いものでした。ネットでは有料公開ですが、地域の図書館に配架されていると思いますので、ぜひご一読ください。


私が興味深いと思ったのは、このランキングで上位に来る事柄と、報道されている政府の少子化対策はポイントがズレているな…と思ったことです。
詳しく見る前に、このランキングの調査方法を押さえておきます。子育てに関する活動や研究をしている専門家の協力を得て、日本経済新聞社が27項目を作成した上で、全国の子どもを育てている男女1000人にインターネット調査を行った結果です。
こうして得られたランキングですが、「第1位:国公立の小学校から大学までの無償化」「第2位:こどものいる家庭への減税措置・給付拡大」「第3位:高校生までの医療費の無償化」「第4位:私立大高中の入学金廃止・大幅減額」「第5位:奨学金の返済負担を軽減」となっていて、上位5位までに教育費の負担軽減が入っています。いろいろな走る人たちのイラスト(学生)
他に、「第8位:保育所・幼稚園の質向上」「第9位:保育の間口を広げる」「第10位:公教育の環境見直し」と、保育や教育の現場で働く人々の労働環境の改善も含めた保育・教育環境の改善が上位に入っていました。実際に子ども達を保育所や学校に入れてみると、先生方の大変さがよくわかるということかもしれません。
他方で、「育児休業制度の改善」「男性育児休業の普及、父親の育児・家事促進」「企業の子育て支援促進」はそれぞれ、12位、14位、15位で比較的順位が低いのでした。
政府の「少子化対策・子育て支援政策」で強調されているのは、児童手当の所得制限撤廃などの「お金を配る」政策と育児休業の普及かと思います。教育費関連はあまり出てきません。このようなことから、「なんだかズレているな…」と改めて思ったのでした。
もちろん、この調査は完ぺきではないとは思います。そもそも「子どものいる人」に尋ねているという点で、「子どもを持ちたいけれど…」と思っている人たちのニーズにマッチているとは限りません。実際のところ、日本の少子化の最大の原因は、若者世代の貧困化であると社会学の諸調査が明らかにしています。「奨学金返済負担」はこの問題と対応しますが、それ以外は「結婚したり子どもを持ったりすることができるだけの、経済的条件や健康的条件に恵まれた人」の意見であるとは言えるでしょう。
ただそのような留保をつけた上でもやはりこの調査結果は、教育や保育のあり方と女性の権利の問題について、大事なポイントを示しているようにも思います。
教育や保育については、家庭の負担も教育・保育現場の負担ももっと軽減する必要があり、そのための政策が求められているということだと思います。女性の権利の問題と関連しては、育児休業の問題です。個人的には、男性の育児休業義務化には「現状において賛成」です。「子どもが生まれることに伴う休業が発生する可能性」を男女同等にしなければ、採用時点での女性差別は無くならないと思うからです。
子供たちを見守る保育士のイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや他方、知り合いの女性の発達研究者の比較的多くが、育児休業そのものに批判的です。実際のところ、育児休業中は保育所などの子育て支援が使えないことなどがあり、「育児休業=子育てを家庭だけが丸抱え」という状態になりがちで、これは子どもにとっても、(休業することの多い)母親にとってもあまり良いことではありません。また、「育児休業促進」というのは別の見方をすると、公的な育児支援をほとんど切り捨てて、家庭と民間に全負担を負わせる仕組みでもあります。「育児に専念」することを強いる育児休業には、光と影があるのです。そんなことを思い出させる調査結果でした。
他に、上位3位までの回答を選んだ割合の、男女別と末子の年齢別の比較も掲載されていました。末子が就学すると教育費負担軽減が選ばれる確率が男女ともに上がるのは、わかりやすい結果だと思います。不思議だったのは、男性は「第2位:こどものいる家庭への減税措置・給付拡大」を選択し、女性は「第1位:国公立の小学校から大学までの無償化」を選択する傾向があったことです。この男女差は末子が高校生になると解消しますが、小学生の時には大きいのです。女性が家計を管理することが多いからなのか、教育・学習にお金がかかることを感じる機会が多いのかわかりませんが、「政府が出している政策に合致する回答を選ぶ傾向」が男性にあるとするならば、やはり政策決定の場に女性を増やす必要はあるなあと思ったのでした。

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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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