Weekend Review~「ハリガミ考現学」

1月から新たな寄稿者になって下さった塔島ひろみさんが、初回のコラムでミニコミ誌「車掌」21号の表紙を南伸坊氏の記憶画が飾ったと書かれているのを見て、数十年ぶりに「ハリガミ考現学」を読みたくなって、本棚から出してきました。赤瀬川源平や林丈二等と共に活動された路上観察学会が好きで、自分でも定点観測と称して(と言っても誰かに言ったわけではないですが)北山界隈を毎月同じアングルで撮影して、街の変化を記録したりしました。飽きっぽいので定点観測はすぐやめましたが、今でも街角ウォッチングは大好きです。「ハリガミ考現学」のまえがきの冒頭に「考現学という学問は、先行した『考古学』という学問の対として出来ました学問であります」と書かれてますが、考現学の創始者とされる今和次郎は街角で通行人の服装を細かく記録したりして、その根気はとても私には真似出来ません。

「ハリガミ考現学」はその名の通り、面白いハリガミを収集したもので、新宿の飲み屋の店内に「けんかをするならおもてでやって下さい。この間もけんかに巻き込まれて、おばさんが怪我をしました」というハリガミが10年以上は張られ、「この間」というのは、いつまで通用するのかとか、水木しげるさん宅の応接間には「面談20分」の貼紙があって、これを気にする人にはこのハリガミは不要で、必要な人には全く効かず、平気で長時間話すとか、ユニークな事例が報告されています。ハリガミが面白いのもあるけど、そうしたハリガミを貼る「人」が面白いという訳で、南氏の考察が可愛いイラストと共に楽しめます。

この本が実業之日本社から出たのは1984年だそうで、その後、ちくま文庫にもなった様です。令和の今もSNSにはユニークなハリガミやPOPがSNSでよく紹介されています。この本にあるのは当時は「考現学」だったけれど、「現」ではないし、かといって考古学まではいかない。過去の世相の記録という感じでしょうか。「電信棒やら、掲示板やら、塀やら壁に、実にさまざまなハリガミが貼ってあるもんでして」とありますが、今は掲示板はほぼ絶滅、電柱のハリガミもあまり見なくなりました。最初のレポートは東京駅地下街の東京温泉というサウナの脱衣場にある「ホモの方 お断りします」というハリガミ。今も地方に行くと「入れ墨お断り」「下駄履き、サングラスご遠慮下さい」といったハリガミがあるかも知れないけれど、「ホモお断り」はないでしょうね。南氏も「下駄履き、サングラスはすぐにわかるけども、ホモをどうやって区別するのであろうか?」とコメントしています。この本に掲載されたハリガミは今はないでしょう(まだ「この間」が通用するかもですが)し、現在も営業している店がどのくらいあるのか。その時々の「今」をとどめる考現学は時間と共に別の楽しみ方が出来そうです。(モモ母)


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