日本の大学の学費は安いという誤解はどこから?

日本の大学の学費の高さについては、何度か書いています。10年程前までは、授業で学費問題を取り上げても、学生の反応はほとんどありませんでした。「大学はエリート教育だから、高い授業料は当然」という意見もありました。知人のひとりはこれを、「グッチは高いほど良い現象」と呼んでいました。つまり、特権が無償やそれに近い値段で手に入っては、特権でなくなるからダメだということだそうです。
そんな状況も徐々に変化し、現在は多くの学生が高学費を「問題」と認識するようです。他方でまじめな彼・彼女たちは「日本の財政を考えると、学費負担は仕方ない」とも言います。でもこれは、違うと思うのです。資金不足に悩む研究者のイラスト(女性)
昨今話題の防衛費増税は純粋に家計に負担ですが、学費負担の場合は、「現在は子どものいる家庭が負担しているものを、子どものいない人も含めてみんなで負担しよう」ということです。増税にはなりますが、子どものいる世帯は学費支出が大幅に減りますから、全体としては負担減です。また、消費税ではなく所得税で徴収すれば、「経済的理由で子どもが持てないのに、他人の子どもの教育費を支払うのは納得いかない」という状況も防げます。
残念ながら私も子どもはいません。定年退職まであと15年ほど、早く制度を変更しないと「私、払わない逃げするぞ~」と学生には言っています。
さてそんな学生たちの中に、年に1人か2人、「日本は諸外国と比べて学費が安く、奨学金も充実していると思っていた」という人がいます。なぜそのような誤解が生じるのか、正確なところはわかりませんが、考えうることが2つあります。
1つは、留学生から高額の学費を徴収する大学が、世界には多くあることです。日本の大学でそんなことをすれば、誰も来てくれなくなると思いますが、英語圏を中心に、自国の学生の何倍もの学費を課しても、留学生が集まる国もあります。昨今は留学をしようという学生が増えているので、留学情報を見て「日本の大学は学費が安いんだなあ…」と思う人もいると思います。
表計算ソフトのイラストもう1つは、日本とは異なり海外の場合、大学のwebサイトなどに記載されている授業料を、そのままの金額で支払う人はほぼいないという現象が、実はあるということです。米国などは典型で、「定額」を支払うのは一部の大金持ちの学生などのみで、一般の学生には減免措置があります。こういうわかりにくい仕組みが良いことなのかどうかはわかりませんが、こういう仕組みになっているのです。
OECD(経済協力開発機構)は、教育に関する国際比較データを集めていますが、近年は大学学費に関して、「初期資金」と「最終資金」のそれぞれを算出するようになっています。前者は「定額」の学費負担金額です。それに対して後者は、給付型奨学金などによって公費から支払われる金額を、「初期資金」から減じたもので、つまり実質的な個人の負担になります。実は日本に関しては十分なデータがなく、OECDも最終資金の数値を出せずにいます。しかし、日本に給付型の奨学金が非常に少ないことは周知の事実です。詳細は、雑誌「経済」の2022年10月号に「いまこそ高等教育を無償へ」という特集が組まれています(図書館などでも読めるかと思います)。


学費問題ひとつとっても、結構複雑な仕組みが背景にあります。さて2023年は学生や大学にとって、また子ども達や学校、教師にとって、どのようなことがおこる1年になるでしょうか? 今年もよろしくお願いいたします。

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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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