宗教2世と霊的虐待(2)

前回記事の続きになります。
安倍氏襲撃事件以降に、私が接した宗教2世問題に関する主な情報のうち、次の3つが全体像を理解するのに良いかと思いましたのでご紹介します。いずれも同じラジオ番組の一部で、次のリンク先の下のほうに音声を聞くことのできるボタンがあります。
1つは、「そもそも宗教2世問題とは何なのか」に関する、宗教社会学者の塚田穂高さんの解説です。


2つめは、宗教2世の支援にあたっている方へのインタビューです。

3つめは、ご自身も当事者で、宗教2世の当事者研究も主催している横田誠さんによる解説です。

1つめは総論で、前回記事で紹介した横田さんの解説記事とも重なるところもあります。個人的に印象的だったのは「霊的虐待」という言葉です。「(自分の言うことに従わないと)地獄に落ちるぞ」、「天罰が下るぞ」といった脅しを行うものです。児童虐待には、殴る蹴るなどの身体的虐待や性的虐待の他に、経済的虐待や言語による虐待に代表される精神的虐待があります。霊的虐待は、精神的虐待の一種と考えてよいのかと思います。
なお、前回に紹介した「宗教的虐待」は、霊的虐待以外の(宗教の教義等を理由にした)身体的虐待や経済的虐待、医療を受ける機会のはく奪等を広く含むもので、霊的虐待の上位概念になります。

2つめの番組では、宗教2世の支援にあたっている方(国内に非常に少ないのが現状です)が、仮名でインタビューを受けています。深刻な状況が多く語られていますが、この支援者の方が何度かおっしゃっているのは、「宗教に関連した虐待への対応は、何か特別な対応を必要とするものではない(宗教とは関連のない虐待やネグレクトと同様の対応をする)」ということでした。
これは別の見方をすると、支援者や支援に関係する人(行政の窓口の人や学校の先生など)が、宗教2世問題についての知識を持つことが大事ということだと思います。2世(3世)が最初に助けを求めた時や求めようとしたときに、彼女・彼らの苦境を察して、支援の専門機関等に適切につなぐことができるかどうかが重要ということになります。流れ星にお願いをする人のイラスト(男性)

3つめは、当事者による証言です。宗教2世問題というと、当該宗教から脱会したくても脱会できないことや、社会的に自立させてもらえないことなどが、特に問題になりますが、実は脱会しても、生活はできるようになっても、問題が解決するわけではないことなどが語られています。例えば、
①禁止されていたことをすると、悪いことをしているような気分になる。
②虐待を受けたときの記憶がフラッシュバックする。
③教祖の命令や教義などの強制により、「自分で決める」ことをさせてもらえなかったため、大小さまざまなことを自分で決めるのが難しい。(結果的に、別のカルト的な団体に入ってしまうこともある)
別の番組で、旧統一教会による被害救済に取り組んでいる弁護士の方が、2世問題に触れて、「自分たちは弁護士なので、お金を取り返すことはできるのですよ。けれども、心を取り戻すことはできないんです」と言って、2世の人たちへの理解と支援を訴えていました。「脱会できればそれで終わり」ではないということにも、注意が必要かと思います。
また横田さんへのインタビューでは、次の2点も印象に残りました。
1つは、宗教2世の人数の少なさです。横田さんは発達障がいやLGBTQの当事者研究会も主催しておられるとのことですが、これらの当事者は人口の1割強程度いると言われており、大阪くらいの都会であれば対面での会が成立していたそうです。しかし宗教2世は数がずっと少ないため、オンラインでないと難しいとのことでした。当事者の数が少ないということは、社会の中で知られる機会も少ないということでもあります。
もう1つは、「実は宗教1世が一番身の置き所がない状態」という話が出てきたことでした。横田さんは1世の集まりもやっておられるとのことで、「経済的社会的基盤を失い、2世からは恨まれ…」ということで、ご自身も2世である横田さんが仰ると、本当にそうだなと思いました。別のNHKの番組で、江川紹子さんが「2世はもちろんだが、1世も被害者だから」と言っておられたのを聞きました。確かにそうですね。私も2世当事者なので、「1世は自分の意志で選んだんだから…」とつい言ってしまいますが、気を付けないといけないと思いました。
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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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