Weekend Review~「舟を編む」

英米文学の研究者だった父が残した辞書が我が家には大量にあって、版が異なる同じ辞書が何冊もあったりします。不要と思ったものはかなり処分したのですが、今後日仏辞典の改訂は難しいらしく、日仏は残しておけば良かったかもとちょっと後悔。続いて、漢和辞典の改訂をやれる編集者はもうほとんどいないし、10年以上資金を投入し続けて改訂をやろうという版元もないとのつぶやき。そういえばネット検索で済むから最近辞書って引かなくなったなぁと思って、ひさしぶりに三浦しをんの「舟を編む」が読みたくなりました。
新たな辞書「大渡海」の出版を目指す辞書編集部を舞台にした小説で、「辞書は言葉の海を渡る舟、海を渡るにふさわしい舟を編む」というのがタイトルの意味。辞書作りには莫大な金と膨大な時間がかかるという西岡の言葉通り、用例採集カードを作成してどの言葉を採用するか採用しないか、用例などの解説をどうまとめるか、どの紙を使うか判断し、気が遠くなる様な量の校正を繰り返し、途中で出版取り止めの危機を何度も経て、漸く出版したと思ったら、その翌日から改訂版に向けての作業が始まる。名前通り「まじめ」な馬締や定年退職後も作業に加わる荒木、監修の松本先生など、まさに辞書作りに人生をかけた人達の手で15年の歳月を経て、「大渡海」は完成する訳ですが、以前読んだ時は不器用だけどこだわりの強い編集に携わる人達が印象的だったけど、再読して面白かったのは、チャラいキャラとして描かれ、途中で宣伝広報部に異動になる西岡。変人だけど辞書作りに向いている馬締の様なこだわりや適正がないと自覚する西岡が、秀でた社交術で「大渡海」のプロモーションに尽力したり、後から入って来る社員の為のマニュアルを残していたり。良い辞書を作っても、世に知られてたくさん売れなければ続かないから広報は大事だし、手に取りたくなる様な装丁デザインも大事。ものづくりって当事者だけでなく周りの多くの人が併走するから良いんですよね。
製紙会社の開発部と技術部が総力を挙げて専用用紙を完成させるのも印象的。他の書物に比べてページ数が格段に多い辞書の本文用紙は薄く、軽く、裏写りしないかを重視して選ぶそうです。でないと、持てないくらいの重量になったり、紙質も指にすいつくようにページがめくれる「ぬめり感」がないと、紙同士がくっついて複数ページが同時にめくれてしまう。辞書って、ユーザーが気づかない無数の工夫で出来てるんですね。こういう紙のこだわりも1ページに入れる文字数をどうするかも、ネット検索では不要になりました。その中を敢えて紙で出版する体力のある会社は確かに今後はなくなるかも。製紙会社の受注もなくなるよね・・と今更ながらに思うのでした。(モモ母)


Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 21

Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 30