かわらじ先生の国際講座~ウクライナを「アフガニスタン」にするな!

6月16日、ドイツのショルツ首相、フランスのマクロン大統領、イタリアのドラギ首相がそろってウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談しました。ルーマニアのヨハニス大統領も同席した由です。
独仏伊の3ヵ国はロシアに宥和的で、ゼレンスキー政権との関係はぎくしゃくしていました。エネルギー面でロシアへの依存度が高いドイツは、ウクライナへの軍事支援に概して消極的でしたし、マクロン仏大統領は「プーチン大統領に屈辱を与えてはならない」と発言し、ウクライナ側の反発を招きました。イタリアはウクライナへの全面支援を唱える一方で、繰り返し停戦を呼びかけ、独自の和平計画を策定するなど、ゼレンスキー政権との対露姿勢における「温度差」を感じさせていました。その首脳たちがウクライナを訪れた意味は一体何でしょう?
ウクライナ戦争への曖昧な態度を払拭し、その継続を後押しすることで一致したということでしょう。それをゼレンスキー氏に伝えにきたわけです。実は前日の6月15日、ベルギーの首都ブリュッセルにNATO加盟国など約50ヵ国が集まり、米国主導のもと、ウクライナへの軍事支援を拡大するための会議が開かれました。米国自らも対艦ミサイルなど10億ドル(日本円にして約1340億円相当)の追加支援を行うことを表明しました。独仏伊3ヵ国首脳のウクライナ訪問も、これと連動したものと見ていいでしょう。現にそれぞれがゼレンスキー大統領に軍事支援を申し出、さらにはウクライナの宿願であったEU加盟のために尽力することまで約束したのです。

これら3ヵ国を含め、欧米諸国がウクライナ支援のために一致団結したとみていいでしょうか?
表向きはそうです。しかし現実は全くその逆だと言わなくてはなりません。ウクライナは他の欧州諸国を守るための犠牲にされようとしているのです。わが国が1945年4月から6月にかけて沖縄戦争を行い、本土決戦の時間稼ぎのため沖縄を犠牲にしたのとよく似ています。NATO諸国はロシアの矛先を自分たちに向けぬよう、ウクライナにロシア軍を釘付けにしようと決めたのではないでしょうか。沖縄の玉城知事が県庁での会合の冒頭、「ゼレンスキーです」と挨拶し大顰蹙を買いましたが、ある意味で的を射た発言だったといえます。

NATO諸国がウクライナを犠牲にするとは思えません。それはあまりに歪んだ解釈ではありませんか?
米国(つまりNATO)の対露戦略は、ほぼ明らかになってきました。それは次の2つです。第一に、ロシアを弱体化させる。第二に、ロシアを勝利させない(すなわちウクライナに敗北を認めさせない)。具体的にいえば、ロシア軍のウクライナ侵攻を膠着化させることです。長引けばロシアはそれだけ戦力を消耗し、国力は弱まります。また、ロシア軍はウクライナで足止めされますから、バルト三国やモルドバなどの旧ソ連圏、ポーランド、チェコなどの旧社会主義圏、そしてフィンランドやスウェーデンなど北欧に手を出す余裕はないでしょう。NATO諸国はウクライナが持ちこたえてくれるかぎりは安泰ということになります。
ただし、一つ条件があります。それはウクライナ軍が国境を越えてロシア領に攻め入らないことです。NATOが提供した兵器によってロシア領が攻撃対象となれば、ロシアとNATOの戦争に発展しかねません。ですから米国はゼレンスキー政権に対し、ロシア領への攻撃は控えるよう釘を刺しています。そして提供するミサイル発射装置にしても、ロシア領まで届く長射程のものは除外されています。結局、戦場はウクライナ領内に限定されているのです。これは1979年から約10年続いたアフガニスタン戦争を想起させます。

どのような点がですか?
かつて米国は、アフガニスタンに大規模な武器援助を行い、ソ連との抗戦を支援してきました。この戦争のせいでソ連はすっかり疲弊し、ゴルバチョフ政権は米国に歩み寄らざるを得なくなりました。アフガニスタン戦争がソ連崩壊を招く一因になったともいえるでしょう。それと同じことを米国のバイデン政権やNATOの首脳たちは考えているのではないでしょうか。
NATOのストルテンベルグ事務総長は、6月19日付ドイツ紙『ビルト』(電子版)のインタビューで、ウクライナ戦争が「何年も続き得る」と指摘し、「ウクライナ支援を緩めてはならない」と強調しましたが、ウクライナを「アフガニスタン化」させる決意表明のようにも読めます。

ウクライナ訪問時に独仏伊首脳とゼレンスキー大統領が並び立った映像は、なかなかインパクトがありました。

センスのいいネクタイを締め、高級スーツに身を包んだ金持ちクラブ(G7)のお歴々が、いかにも労働者風のゼレンスキー氏を囲み、あたかも「われわれのためにしっかり働いてくれ」と激励しているかのように見えてしまったといえば、邪推にすぎるでしょうか。
しかし、戦争以前でさえウクライナのEU加盟に否定的だったこれらの国々が、600万超の難民を出し、もはや破綻しかかっている国家を本気でEUの一員に加えるとは到底思えません。「EU加盟候補国」への支援表明などおためごかしもいいところです。それを釣り餌に、どこまでウクライナを戦わせる気なのか。暗澹たる気持ちにならざるをえません。

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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもある。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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