「カナリア俳壇」67

いよいよ6月。雨の多い鬱陶しい日が続きそうですが、そんなところにも詩因を見出してこその俳人です。お互い元気に作句に励みたいものですね。

△幾つかの段取り確かめ籾を蒔く     作好
【評】俳句では中七の字余りは御法度とされています。このままですと中八ですから、とりあえず「籾蒔けり段取りすべて確かめて」としておきます。

△うらうらと二羽寄り添いて燕来る     作好
【評】「うらうらと」は「うららか」という春の季語の副詞ですので、春の季語「燕」と重複感があります。上五を別の語に変えてください。「添ひて」と表記しましょう。

△よとうむし大株一夜に倒しけり     美春
【評】中七の字余りはいけません(このままでは中八)。「大株を一夜に倒し夜盗虫」。

△五月雨や二人歩をとる健診日     美春
【評】「歩をとる」とは歩いて行く意味でしょうか。いっそ「脈取る」のほうがおもしろいかもしれません。

△~○薔薇の庭友活き活きと花自慢     ゆき
【評】「自慢」という言葉に揶揄の気味を感じますので、「薔薇の庭友活き活きと名を示す」くらいでいかがでしょう。

△紅薔薇や蕾開かむ今朝の庭     ゆき
【評】上五は中七に続いていますので、上五で切ってはいけません。とりあえず「紅薔薇の開く気配や今朝の庭」としておきます。

△~○昔日を鮮やかに染む山桜梅     白き花
【評】歳時記で確認すると「ゆすらうめ」は「山桜桃」と書くようです。「鮮やかに染む」が解釈しづらいので「昔日とたがはぬ色や山桜桃」としてみました。

○空の藍借りて纏うて翡翠飛ぶ     白き花
【評】詩的な句ですが、「借りて纏うて」がもたつく感じです。「大空の藍を纏ひて翡翠飛ぶ」くらいでいかがでしょう。

○乳呑み児の乳の匂ひやさくらんぼ     妙好
【評】乳呑み児とさくらんぼの取り合わせはやや類型的ですが、叙情豊かな作品です。

○亡き父のこゑ空耳か蛍の夜     妙好
【評】「空耳か」は解釈ですね。俳句は解釈以前のところで仕立てるのが理想です。たとえば「亡き父のこゑ耳元に蛍の夜」といった具合に。

○バス停へ急ぐ乙女の夏帽子     織美
【評】もう一つ具体描写がほしいところです。「バス停へ乙女夏帽ひらめかせ」など。

○向日葵や好青年の笑ひ顔     織美
【評】映画の一場面に出てきそうな素敵な句ですね。「笑ひ顔」で「好青年」の「好」の部分は十分伝わりますので、この「好青年」がだれなのかわかると更によくなりそうです。「向日葵や若き校医の笑ひ顔」など。

○友の待つ駅へ小走り太宰の忌     音羽
【評】「走れメロス」を念頭に置いての一句でしょう。俳諧味がありますね。「小走り」をもう少し強め「走れり」としたほうが面白みが増すかもしれません。

○墳丘を越え夏蝶の吹かれけり     音羽
【評】「越え」に夏蝶の意志を感じますので、「吹かれけり」という受け身でなく、能動的な表現のほうが力強さが出るように思います。「墳丘を越えて高みへ夏の蝶」など。

○花すぼり小さき胡瓜に棘光る     智代
【評】「花」「胡瓜」「棘」と物が3つもあると焦点がぼやけますので、「花すぼり」は省略しましょう。「小指よりちさき胡瓜に棘光る」など。

△払子めく風にゆさゆさ白四片     智代
【評】「払子めく風」がよくわかりません。「白四片払子のやうに吹かれけり」でしょうか。

△~○入梅の最上階は雲の中     徒歩
【評】上五で切れを入れたいところです。また「最上階」ももうすこし具体性がほしいと思います。「入梅や雲を眼下に摩天楼」など。

△蚊柱や濠跡深き女坂     徒歩
【評】濠跡と女坂の関係が今一つわかりませんでした。また蚊柱は濠跡と女坂のどちらに立っているのかもはっきりさせるとよいと感じました。

△~○手に残る十薬の香や午後三時     万亀子
【評】俳句で具体的な時刻を入れるのはよくないとされています。その必然性が弱いためです。下五、「昼下り」くらいでいかがでしょう。

△~○水都てふ湧水の街や燕飛ぶ     万亀子
【評】俳句では中七の字余りは厳禁とされています。「湧水の街」としましょう。

△浅草の三社祭や夏近し     千代子
【評】俳句で「三社祭」といえば浅草のこと。しかも夏の季語です。全面的な仕立て直しが必要ですね。

△麦畑黄金色の穂が揺るる     千代子
【評】なにか一つ、作者ならではの発見がほしいところです。「たてがみのやうに靡く穂麦畑」など。

◎藺草の香畳屋の戸の開きてをり     多喜
【評】まず藺草の香がしてきたのですね。そうして畳屋の戸が開かれていることに気付いたのでしょう。鋭敏な感覚の句です。

○~◎白鷺の首をS字に啄めり     多喜
【評】おしゃれな表現の句です。たしかにS字ですね。

○~◎誕生の嬰の記念樹花水木     ちづ
【評】明るい句でたいへん結構です。「樹」が花水木と重複しますので、「記念や」と切るのも一法でしょう。

○~◎母に嬰語りかけたる花すみれ     ちづ
【評】「喃語」で語りかけたのですね。中七を「語りかけたり」と切れば完璧です。

○夏草やプールの跡に鎮魂碑     維和子
【評】写生はきちんとできていますが、なぜプール跡に鎮魂碑があるのかと読者は疑問に思います。プールを閉鎖せねばならぬほどの大惨事があったのでしょうか。前書が必要かもしれません。

○鉛筆の芯のやうなる蜥蜴の尾     維和子
【評】ちぎれた尾が生えてきたのですね。発見のある、面白い句です。「鉛筆の芯ほどの尾が蜥蜴より」などとする手もありそうです。

△~○素顔見せ植田綿々さざなみす 永河
【評】「素顔見せ」に作者の思いが凝縮していることはかわるのですが、それがどこまで読者の心に届くかですね。やや観念的になりますが「綿々と植田の小波我にまで」と考えてみました。

○紫陽花や和紙に滲みゐる青インク     永河
【評】取り合わせの句ですね。どうせならもっと季語を離し「空梅雨や和紙を滲ます青インク」などと冒険してみるのも一興かと思います。

△~○梅雨晴れや鎌倉殿の段葛     慶喜
【評】ネットで調べたら、段葛とは「鎌倉市の鶴岡八幡宮の参道」とのこと。たぶんテレビドラマを踏まえての句かと思いますが、作者ならではの発見のある句にしてほしい気がします。俳句では送り仮名をつけず「梅雨晴」とするのが一般的です。

△今日からは妻取り替える夏布団     慶喜
【評】奥さんを取り替えるのかと、どきりとしました。とりあえず「今日からは妻と揃ひの夏布団」としておきます。

○~◎真白なる建築模型梅雨の入     あみか
【評】オリジナリティーのある、おもしろい取り合わせの句です。「真白なる」を「真つ白な」としたほうがモダンな感じになるかもしれません。また、漢字が6つも続くと黒っぽくなるので、そのへんを一工夫してください。「真つ白な建築模型夏の雨」「真つ白な建築模型迎へ梅雨」等々。

並べ吊る新玉葱と長靴と     あみか
【評】「並べ吊る」がやや窮屈です。「玉葱の横に長靴吊るしけり」としてみました。

次回は6月28日(火)に掲載します。前日の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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