「カナリア俳壇」59

コロナに明け、コロナに暮れる感のあった1年でしたが、皆さんの力強い句にわたし自身も多々刺激を受けました。今回も皆さんの句を楽しみに読ませていただきます。

◎涸川や鳥の足跡入り乱れ     恵子

【評】荒涼たる風景ですが、餌を求めてやってくる鳥たちのひたむきな様子がうかがわれます。

◎大北風や竹林空を掃きどほし     恵子

【評】うなるような音をたてて風に吹かれる竹林は、凄まじさを感じさせるばかりですが、「掃きどほし」と擬人化して詠めばユーモアが生まれます。俳諧味のある作品です。

○手火鉢に乏しき火種点りをり     美春

【評】もう手をあぶっている人もいないのでしょうか。冬深む頃のどこか侘しい感じがよく出ています。

△~○朝まだき空屋に群るる寒雀     美春

【評】この空屋は、だれも住んでいないご近所の家でしょうか。なぜ戸締まりしていないのか疑問は残りますが、餌や暖を求めて集まる雀の様子を思い浮かべました。中七・下五を「空家の庭に寒雀」とすれば疑問は氷解するのですが・・・。

△~○米蔵の屋根石冬日抱きをり     ひろ

【評】屋根石が冬日を抱いているのでしょうか。それとも冬日が屋根石を抱いているのでしょうか。どちらのケースにせよ「抱きをり」は無理な表現だと感じます。とりあえず「米藏の屋根石冬の日を弾く」くらいでいかがでしょう。

△石窯のほとぼりを受く冬のピザ     ひろ

【評】「ほとぼりを受く」が今一つでしょうか。もっと端的な言い方がありそうな気がします。それに「冬のピザ」も季語として無理を感じました。

○玻璃越しに母と合はす手悴みぬ     妙好

【評】きっと病院での風景なのでしょうね。切実な感じが胸に迫ってきます。前書があったほうが親切かもしれません。

○レクイエム流るるラヂオ寒の月     妙好

【評】レクイエムは別名、鎮魂歌ですので、亡き人を偲んでいるのかもしれませんね。窓から見える月でしょうか、「寒の月」が清らかです。

○~◎義景のかけし刀根坂はつあられ     音羽

【評】戦国武将の朝倉義景が敗走した道として知られる刀根坂を吟行されたのですね。武人としては失敗続きでしたが、文芸の道に秀でた人だったと聞きます。「かけし」や「はつあられ」は漢字が続くことをきらっての工夫でしょうが、義景の人柄をうかがわせる効果もあるように感じました。

◎尾根道へ熊よけ鈴を高鳴らし     音羽

【評】「高鳴らし」に作者の気持ちの高まりまで感じ取れます。このままでもけっこうですが、「熊よけの鈴高鳴らし」のほうがさらに安定する気もしました。

○息受けて悴みし指甦る     白き花

【評】「甦る」はまさに実感ですね。俳句はメリハリが大切です。語順を変え「悴める指甦る息受けて」とするだけで、だいぶパンチのきいた句になるのではないでしょうか。

△こそばゆい山茶花梅雨に首すくむ     白き花

【評】「山茶花梅雨」は11月の長雨。ネットで調べて初めて知りました。「こそばゆい」がうまく解釈できませんでした。どんな状況なのでしょう。

△馬柵越しのみどりを残す枯蟷螂     マユミ

【評】「馬柵越しの」が漠然としていて、今一つ焦点が合っていないように感じます。牧草と枯蟷螂の取り合わせで作るのも手でしょうか。

△~○冬鴉声を残して閻魔橋     マユミ

【評】「~して」という形は切れが弱いため、できるだけ避けましょう。上五、下五ともに名詞という形も本当はよくありません。「冬鴉声を残せり閻魔橋」。「声残し閻魔橋より寒鴉立つ」とすることもできます。「寒鴉」は「かんあ」と読みます。

○冬晴や庁舎の庭のウェディング     万亀子

【評】もしかすると新郎新婦(のどちらか)が庁舎にお勤めの公務員なのかもしれませんね。すなおな作りの句でけっこうと思います。

○霜の道靴跡黒く遠ざかる     万亀子

【評】おもしろいところに着目しましたね。このままでもけっこうですが、「黒き靴跡遠ざかる」とどちらがよいかご一考ください。

○月冴ゆるワイン煮込みの肉ほろり     智代

【評】「月冴ゆる」の硬質な感じと、肉の軟らかさの対比が効果的です。都会的な雰囲気で、料理も美味しそう。幸福感も伝わってきます。

◎雪もよひ温もり残る帯を掛く      智代

【評】谷崎潤一郎の『細雪』に出てきそうな場面ですね。上品で繊細な句です。帯の温もりに注目したところが秀逸です。

△携帯へチキンのレシピクリスマス     織美

【評】形としては俳句になっていますが、日常感覚にとどまっており、高揚感が十分に伝わってきません。一句のなかに使うカタカナは一つ、というのがわたし自身の原則です。カタカナ3つは多すぎで、落ち着きのない句になってしまいます。

○経終へし師走の僧の深おじぎ     織美

【評】「深おじぎ」に一年を締めくくる心まで感じ取れる句です。もう少し調べをよくするため、上五を「読経終へ」としたい気もします。

△欠伸して蟷螂バスに置き忘る     多摩子

【評】お孫さんのことでしょうか。おもしろいと言えばおもしろいのですが、正直なところ困った句です。乗客も運転手さんも、カマキリの持ち主も、カマキリ自身も困っていることでしょう。

△古地図もて訪ふ尼寺に籔柑子     多摩子

【評】「古地図もて」というところが感動のポイントかと思いきや、「尼寺に藪柑子」を見付けたことに感動しているようでもあります。詰め込み過ぎです。「古地図もて訪ふ」はカットして、尼寺の藪柑子のみに意識を集中してはいかがかでしょうか。

△~○冬ざれや桜古木に虎ロープ       永河

【評】桜の古木が朽ちかかっており、養生のためトラロープで囲ってあるのですね。写生はしっかりできています。しかしまだ日常感覚にとどまっているように思います。同じ句材であと2、3句続けて作ると、そのへんでハッとする秀句が出てきそうな予感がします。

○冬桜小径に猫を描く子かな       永河

【評】「子かな」という形にすると、焦点がこの「子」に来てしまい、冬桜の情緒が薄れてしまいます。「道端で猫を描く子や冬桜」等、季語を下五に置くとよいかもしれません。

△歳末や入店毎の電子音     徒歩

【評】これはどこの店でしょう。また電子音も曖昧でぴんときません。もしかするとコンビニでしょうか。とすると年中のことですので、季語が生きていませんね。

○人送る鉄扉の前の冬木道     徒歩

【評】精神性を感じさせる句ですが、「人送る」が曖昧で、状況が把握できませんでした。いっそ上五を「葬送や」としてはどうでしょう。

△七輪の鰤の照焼き脂垂る     多喜

【評】形としては俳句になっていますが、常識の範囲内との印象を受けました。「脂乗る」は俳人でなくても言えます。俳人でなければ言えないこと、俳人の目でなければ見落としてしまうようなことを詠んでほしいと思います。

◎枡で買ふ丹波老舗の黒大豆     多喜

【評】「枡で買ふ」という具体描写がいいですね。丹波も効いています。何より小唄調の調べが心地よく、正月らしい華やぎも感じられます。

△自然薯の粘りや娘らと麦とろろ  千代子

【評】自然薯に粘りがあるのは自明ですので、感動のポイントとはなりません。また、「自然薯」も「麦とろ」も秋の季語で、この季重なりはよくありません。

○弁当を広ぐさかりの四季桜    千代子

【評】満開の四季桜のもとでお弁当を食べたのですね。こんな冬のお花見も悪くありませんね。作者の浮き立つ心が伝わってきました。

△初暦使はぬ部屋へ風を入れ     あみか

【評】この季語でいいのかどうか。句柄を大きくするために、意表をつく季語を探してほしい気がします。あるいは「風を入れ」とせず、「初風」という季語を使う方法もありそうです。ご一考ください。

△オードリータンの眼差し寒昴     あみか

【評】寒昴が何かを象徴しているのでしょうが、句意をはかりかねました。「オードリータン」は前書にして、もう少し写生を深めてほしいと思います。

△~○宮参り終へて集まる炬燵の間   ちづ子
【評】「炬燵の間」というのは自宅のことでしょうか。とすると、やや表現が硬いように思います。「宮参り終へ来て炬燵囲みけり」など、もう一工夫してください。

◎霜晴や花豆柔く児に煮たる    ちづ子

【評】霜晴のまぶしさと花豆を煮る光景がマッチしていますね。表現も無理がなく、けっこうです。

次回は1月11日(火)の掲載となります。前日10日の午後6時までにご投句いただけると幸いです。では皆さま、よいお年をお迎えください。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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