かわらじ先生の国際講座~中国共産党が「歴史決議」を採択

11月8日、中国共産党の重要会議「第19期中央委員会第6回総会」(「第19期6中全会」と略称)が開催され、同月11日に40年ぶりとなる「歴史決議」(「党の100年にわたる奮闘の重大な成果と歴史経験に関する決議」が採択され、閉会しました

 NHKニュース 
中国共産党「歴史決議」採択 習国家主席の権威高めるねらいか | NHKニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211112/k10013344671000.html
【NHK】中国共産党は11日まで開いた重要会議でこれまでの党の歴史を総括する「歴史決議」を採択し、党トップとして異例の3期目入りを…

この「歴史決議」はどのような意味をもつのでしょう?

まず「第19期6中全会」について簡単に説明しておきます。中国では5年に1回、共産党大会が開かれます。この5年間を1期と数え、来年(2022年)には第20期(回)共産党大会が開催されます。大会と大会のあいだの5年に7回、共産党中央委員会総会(中全会)が行われ、大会に次ぐ重要性な会議とされます。今年は第19期の4年目となり、6回目の中全会が開かれたわけです。7回目の中全会は、おそらく党大会の直前、その最終準備のため行われるものと思われます。
ところで中全会は、一切非公開とされています。5年に1度の党大会は半ばイベント的なものですが、中全会は共産党幹部(中央委員たち)が一堂に会しての真剣な討議の場ですから、当然、意見対立も生じるのでしょうが、関係者以外はうかがい知ることができません。そして、採択された「歴史決議」も、実はまだ公開されていないのです。

それはなぜでしょう?

採択された以上、すでに成文化されているはずですが、何しろ40年ぶりの極めて重要な文書ですから慎重を期し、公開のタイミングをはかっているのでしょう。概要は11日に発表された「コミュニケ」(公報)に述べられていますので、それに対する国内外の反響を見ながら、微調整する余地を残しておきたいのかもしれません。

では、その「概要」はどのようなものですか?

今年は中国共産党結党100周年ですので、この100年の歴史を総括した内容ですが、一口で言えば、共産党の歩みをほぼ全面的に肯定し、現代を習近平政権による「新時代」の幕開けと位置づけています。最初に「歴史決議」が採択されたのは1945年。このときは毛沢東がそれまでの路線を厳しく批判し、自らの指導体制を正当化しました。2回目の「歴史決議」の採択は1981年で、鄧小平が毛沢東の始めた「文化大革命」を「完全な誤り」と断罪し、経済を改革・開放路線に切り替えました。過去の「歴史決議」はこの2回だけです。そしていずれも前政権を否定したものでした。

その点で今回の「歴史決議」は異なりますね。

はい。毛沢東については、国民の生活と経済に壊滅的な打撃を与えた「大躍進」政策や「文化大革命」に一切触れていませんし、個人崇拝への批判的言辞も見られません。鄧小平に関しても、天安門事件への言及はありません。ただし、「コミュニケ」から判断すると、鄧小平の評価を下げていることがわかります。習近平氏の路線を「中国の特色ある社会主義思想」「21世紀のマルクス主義」と述べ、社会主義の原理への回帰を強く印象づけているのです。これは市場経済と競争原理を導入し「国家資本主義」とも言われる鄧小平路線からの離脱を意味しています。自由競争に制限をかけ、分配の公平性に力点を置く「共同富裕」を主要政策としている点も社会主義的です。現政権が「アリババ」など中国の巨大IT企業への圧力を強めているのはその実践です。中国不動産大手「恒大集団」の経営危機も中国当局による不動産市況のバブル抑制策が引き金となっています。
昨今の中国では「毛沢東思想」のみならず、習近平の思想が学校等で学ばれています。

いまや中国では習近平氏が毛沢東に並ぶ指導者と位置づけられつつあります。今回の「歴史決議」は、それを歴史的に正当化しようとする文書と見なしてよいでしょう。2018年の憲法改正では、国家主席の任期を2期10年とする規定が削除されましたが、他方、共産党においては総書記の任期を2期10年までとする不文律がありました。しかし、この「歴史決議」では習総書記が礼賛されることにより(そしてその後継者への言及も全く見当たらないことにより)、党トップとしても今後長く君臨するための根拠を得たことになります。習近平政権はいよいよ盤石の体制を固め、来年の党大会を迎えることになりそうです。

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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもある。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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