心をコントロールしたいということ(4)

前回はエリクソンが、幼少の頃に自身を苦しめたの「秘密を抱えた家族」を、自らも作ってしまったという話まででした。
「上の子どもたちを守るため」の行動と嘘だったのですが、実際にはそううまくいきません。事実を知らない子どもたちは、おかしいと思っていたそうです。ニールは死んだはずなのに、お葬式もお墓もなかったのです。長女のスーは後に精神分析家になるのですが、幼いころには、知的障害のあるニールが家にいればやっていたであろう行動を、ついとってしまうことがありました。結局7年後に、子どもたちは真実を知ることになりました。スーは、自分もいつか家族から置き去りにされるのではないかという恐怖を、忘れ去ることができなくなりました。
彼の伝記を書いた歴史家のフリードマンは次のように記しています。「家族のダイナミックスは持続した。危機の時に、1つのパターンを繰り返させる情動的圧力は強力である。一方、鋭敏で卓抜な児童分析家として培ってきた膨大な知識と経験は、ほとんど機能しなかったようだ。エリクは、自分の患者の親には、子どもに対して率直で正直になるように、子ども同士を対立に巻き込むことがないようにと、繰り返し助言した」
ちなみにエリクソンは後年に、『スポック博士の育児書』で知られるスポック博士と一緒に仕事をすることになります。ニールが生まれたとき、もしも、エリクソンとスポック博士がすでに親しければ、別の展開があったのかも…と思ってしまいます。
結局のところ、心というのは思うようにコントロールすることはできないものです。エリクソンのような卓抜した心理学者でさえ、悲しいけれどもそうでした。もちろん、感情や無知を暴走させていいわけではありませんし、適切に知識を持つことも重要です。けれども、自分の心も他者の心も、思うようにコントロールすることなんてできないし、それをできると思うことは危険なことなのではないかと思います。メンタリストを自称して活動している方の発言から、4回にわたって書いてきたエッセイですが、いったん今回でおしまいです。次回以降はまた、教育や発達、人権をめぐるニュースなど取り上げたいと思います。
※ 参考文献「エリクソンの人生」(L.J.フリードマン著、やまだようこ・西平直監訳、新曜日社)
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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