改めてヘイトスピーチについて

京都朝鮮第一初級学校への襲撃事件から、去年の12月で10年が経ちました。襲撃事件の後も周辺ではヘイトスピーチが相次ぎ、通学していた子どもたちは心に深い傷を負いました。
SNS上では、東京のJR十条駅の駅員さんたちが作ったポスターが話題になっていました。子どもたちを見守る駅員さんたちの温かさが伝わってきます。


他方で、特に朝鮮半島にルーツを持つ方々を対象にした脅迫などは今も続いています。虐殺を予告する年賀状が送り付けられたりもしました。


ヘイトスピーチを規制する条例や法律もできましたが、罰則規定がありません。国連の人権委員会はこのような状況を改善するように求めています。


国の動きは早くないようですが、自治体によってはヘイトスピーチに刑事罰を科す条例制定への動きもあります。


「表現の自由との兼ね合い」という問題があると指摘されますが、表現の自由というのは国家権力や政治権力に対するものであり、一般の人々、しかもマイノリティ的な存在の人々への攻撃と同列に扱うのとは少し違うように思います。
「国家権力への批判」とヘイトスピーチを混同するような議論は、実はあちこちにあります。2014年のことですが、当時も総務大臣だった高市早苗氏がヘイトスピーチと官邸前の反原発デモを同列に並べて規制すべきというような発言をしたことがありました(批判を受けて撤回しましたが)。


なお、ヘイトスピーチという言葉が知られるようになる一方で、拡大解釈もあるように思われます。日本の法務省による定義はこちらです。

実際には他の定義もあります。法務省の定義では、日本以外の国にルーツを持つ人々への攻撃的言動のみを対象にしていますが、一般的には障がい者や先住民族(日本であればアイヌの方など)、セクシャルマイノリティの方々を対象に含めることが多いです。また法務省の定義では「国外にルーツを持つこと_のみ_を理由に」とありますが、実際のヘイトスピーチは誤解に基づくものも含めた様々な「言いがかり」をつけて行われることもあることには注意が必要かと思います。
他方で、ヘイトスピーチという言葉の拡大解釈も危険です。例えば、韓国で行われる日本製品の不買運動や日本政府への抗議活動を「ヘイトだ」とみなす言動が比較的幅広く聞かれますが、それらはヘイトスピーチ(ヘイト)には該当しない、ただの抗議活動です。抗議の内容への賛否はあると思いますし、日本人として気持ちの良いものではないかもしれませんが、「不愉快な思いをさせる=ヘイトスピーチ」では決してありません。
終わりに、ヘイトスピーチが行われている大阪の街で、一人の韓国人女性がフリーハグをした映像を紹介しておきます。「応じてくれるのが若者ばかり…」という悲しげな声を聴いたことがあるのですが、「いや、うちの母(80歳)だってフリーハグが何か知らないから…」と個人的には思っています。フリーハグって何?と思っておられる方も、知っているよという方も、ぜひこちらの映像をご覧ください。

フリーハグは日本と韓国のあちらこちらで若者たちによって実行されています。フリーコーヒーというのもあるそうです。


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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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