かわらじ先生の国際講座~トランプ大統領の「中東和平」案

1月28日、トランプ大統領は「パレスチナ問題」に関する和平案を発表しました。パレスチナ人居住地とイスラエルとの間に新しい国境線を引き、パレスチナ国家の樹立を認め、イスラエルとの共存を呼びかけるものです。1948年、中東にイスラエルが建国されたことに伴い、膨大な数のパレスチナ人が故郷を追われ難民化し、その後70年以上にわたってパレスチナ側とイスラエル側が紛争と交渉を繰り返してきた「パレスチナ問題」がようやく決着をみるのでしょうか?

結論をいえば、トランプ氏の行動は歴史的な積み重ねを無視した暴挙でしょう。先人たちの和平努力をふいにし、中東情勢を混乱させ、中立的な仲介者としてのアメリカの信用を失墜させるものと言わなくてはなりません。

なぜでしょうか?

トランプ氏の提案は、イスラエル側の言い分を一方的に認め、パレスチナ側に服従を強いる内容だからです。1967年の第3次中東戦争でイスラエルはヨルダン川西岸地区やゴラン高原などを占領し、ユダヤ人の入植を進めてきました。戦争によって獲得した地域に自民族を入植させることは国際法違反ですから、アメリカを始めどの国もこれを容認してきませんでした。今回トランプ大統領は、これら入植地の大部分をイスラエル領土に編入することを承認しようとしているのです。また、パレスチナの意に反し、エルサレムをイスラエルの首都とすることも認めました。さらに、パレスチナ難民のイスラエルへの帰還は禁じています。当然ながら、パレスチナ自治政府はこの案を一蹴しました。しかしこの和平案によってアメリカ政府のお墨付きを得たイスラエルは、入植地の自国への併合を着々と進めつつあります。

なぜ今、この和平案が出てきたのでしょう。

政権維持を目指すアメリカのトランプ大統領と、イスラエルのネタニヤフ首相による打算の産物としか言いようがありません。現在のトランプ氏にとって最大の目標は大統領選挙に勝つことです。同氏が国内で最大の支持母体としているのはキリスト教福音派ですが、彼らが親イスラエルの立場をとっています。また政財界に影響力を持つとされるユダヤ人ロビーも味方につけなくてはなりません。他方、今年3月に総選挙が予定されているイスラエルでは、ネタニヤフ氏が汚職容疑で窮地に立っています。首相続投のためにも、トランプ氏の「和平案」に乗って実績作りをする必要があるというわけです。

まさに政治の私物化ですね。この「和平案」を実行すればどんな事態を招くのでしょうか?

まず歴史の教訓に全く学ばないことになります。もっといえば、歴史への背信行為です。わかりやすく、かつての日本を例にとりましょう。戦前の日本は、中国領土に「満洲」という傀儡国家をつくり、日本人を入植させました。トランプ大統領の提案は、いわばこの入植を肯定するのみならず、「満洲」そのものの日本への併合を承認するに等しいのです。

それはあり得ないことですね。パレスチナ側も決して黙っていないでしょう。

トランプ氏はパレスチナに対し、飴と鞭の両面作戦をとろうとしています。まずワシントンにあるパレスチナ代表部を閉鎖し、パレスチナ難民を支援する機関への拠出金をストップしました。パレスチナへの圧力です。一方で、アメリカの言うことを聞くなら、パレスチナに対し500億ドル(約5兆3600億円)という膨大な額の経済支援を行うとも約束しています。

これも日本を例にとるなら、なんだか日本政府の対沖縄政策みたいですね。すなわち米軍基地受入れと引き換えの沖縄振興予算(助成金)に似ている気がします。

実際、今回の「中東和平」案には理念も、正義も、歴史的重みもありません。あまりにも存在が軽すぎるのです。こんなふうに目先の利益だけで軽はずみな決定を下せば、歴史の大きなしっぺ返しがあるでしょう。トランプ氏の怖いところは、歴史への畏怖がない点です。まるでマネーゲームのように国際政治を扱っています。それが世界に何をもたらしているのか、我々はしっかりと見極めないと大変な禍根を残すことになるかもしれません。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰


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