Weekend Review~「初めて人を殺す-老日本兵の戦争論-」

なかなか刺激的なタイトルですが、詩人の井上俊夫さんが中国での体験や戦後抱き続けてきた思い等を綴ったもの。軍隊に入って間もない最下等の兵士は「初年兵」と呼ばれ、教育係の古参兵にこき使われ、私的制裁を加えられる日々。夜中に突然訓練の命令があると飛び起きて身支度して整列、一番最後の者は殴られる・・・。新たな兵士が送られ、後輩が出来ると漸く制裁から解放される。と、今度は彼らが新入りに制裁を加える側になる。殴られてばかりの初年兵は、一斉検問と称して集落の民家に乱入した際に中国人達が慌てふためくのを見て憂さ晴らし。反抗する中国人がいると、蹴り上げる、「こんな行為をしても、ちっとも悪いことをしているという気がしなかった」と井上さんは書いています。古参兵には略奪、強姦を繰り返した人もいたと言います。
夜中に非常呼集があって慌てて大木の近くに集まると、一人の中国人が縛り付けられていて、一人ずつ順に剣で突く様に命じられる。井上さんは、戦後出かけた戦友会で元上司から、連隊本部では作戦の都度捕まえてきた捕虜や密偵を取り調べ、収容するものの、建物が狭くて収容しきれなくなると、各中隊に「配給」して処分させていたとの証言を聞き出すことに成功します。「見習士官には斬首訓練、兵士には刺殺訓練として有効適切に殺していた、我々皇軍には国際条約もへちまもあるかいな」と元少尉は高笑いしたとのこと。戦後の平和には悪いところもあるけれど、「悪い平和」でも「悪い戦争」より絶対に良い、この国が平和だったおかげで私達は今日まで生きてこられたと井上さん。
著者の井上俊夫さんにKBS京都ラジオ「早川一光のばんざい人間」でお話を伺ったことがありました。早川先生の奥様のゆきさんが通っておられたエッセイ教室の講師をされていたのが井上さんでした。温厚な語り口の男性で、人の命を奪った過去があるとは思えない。井上さんのような人が日本には大勢いるんだなと、思ったのでした。ごく普通の人たちを被害者にも加害者にもしてしまうのが戦争。「日本はまた同じ様なことを繰り返すだろう」と井上さん。読んだ当時は軽く読み過ごした彼の警告が、近年急激に現実味を帯びて来て、恐ろしい。再度お話を伺いたいけれど、井上さんは鬼籍に入られ、番組も終了したので、叶いません。今こそ読みたい一冊です。井上さんには、出来ることなら言いたくない事実を、こうして書き残して下さって、有難うございましたとお礼を申し上げたいと思います。(モモ母)


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